電子部品が手に入らない。
しかも、部品が完全に枯渇するまで残された時間は限られていました。
コロナ禍で起きたこの事態に対し、私たちは新しい設備や自動化に頼ることなく、
SMT後の組み立てはんだ付けという、最も難易度の高い工程に向き合いました。
品質、再現性、タクト、人、メカとの勘合、そして信頼性。
複数の制約が同時に存在する中で、生産を止めなかった判断とは何だったのか。
この記事では、
ヤニ入りハンダ・溶融ハンダの技術を最大限に活かした生産技術の仕事として、
非常時に現場がどのように考え、どう成立させたのかを実体験ベースでお伝えします。
- 部品枯渇という非常時に、現場で何が起きていたか
- SMT後の組み立てはんだ付けが、なぜ最大の苦難だったのか
- 技術要素をどう整理し、判断したのか
- タクト制限下で手作り生産を成立させた考え方
- 感覚作業をどう定量化・標準化したのか
- メカ勘合・信頼性試験まで含めた生産技術の役割
- 若手・管理職へのメッセージ
結論:生産を止めなかった理由
結論から言うと、
生産を止めなかった最大の理由は、
新技術ではなく、これまで積み上げてきた現場経験でした。
コロナ禍で起きた部品枯渇の現実

・電子部品が入手困難
・生産停止のリスクが顕在化
・グループ会社全体への影響
・部品枯渇までに対策が必須
開発と製造の役割分担

| 役割 | 内容 |
|---|---|
| 開発 | 既存部品が使えない前提で子基板を設計 |
| 製造・生産技術 | 子基板を「部品」として成立させる |
設計と量産は、別物です。
今回の核心技術はSMT後の組み立てはんだ付け

今回成立させたのは、
SMT後工程における組み立てはんだ付け。

なぜSMT後はんだ付けが最大の苦難だったのか(図解)

SMT工程(装置主体・条件固定)
- 装置が主役の工程
- 温度、時間、位置などの条件を数値で管理できる
- 一度条件が決まると、再現性が高い
- 「設備を理解する力」が重要
👉 生産技術としては「装置条件をどう作り込むか」が勝負
SMT後組み立て工程(今回もっとも苦労した工程)
- SMTとDIPの間に存在するグレーな工程
- 条件が毎回微妙に変わる
- 人の癖
- 材料(ヤニ入りハンダ・溶融ハンダ)の特性
- 部品・メカとの組み合わせ
- 数値化しづらく、感覚に頼りがち
👉「材料の特性 × 人の特性」
この組み合わせをどう安定させるかが最大の課題でした。
DIP工程(単純工程・治具化しやすい)
- 構造が分かりやすい
- 治具化・標準化がしやすい
- 作業方法を決めれば安定する
👉SMT後組み立て工程と比べると、
「仕組みで解決しやすい工程」
なぜSMT後組み立て工程が一番難しかったのか
- 装置でもなく、完全な手作業でもない
- 条件が「固定」できず「揺れる」
- しかし、
- 必要数量がある
- タクト制限がある
- 信頼性試験もクリアする必要がある
👉感覚だけではダメ
数値だけでもダメ
技術要素の棚卸し

| 項目 | 検討内容 | 視点 |
|---|---|---|
| はんだ材料 | クリーム/ヤニ入り/棒 | 特性・扱いやすさ |
| 加熱方法 | 全体/局所/両面/溶融 | 熱影響と作業性 |
| 供給方法 | 自動/振り子/自重 | タクトと安定性 |
新技術ではなく、経験済み技術の再構成でした。
非常時の判断軸

| 判断軸 | 考え方 |
|---|---|
| 今すぐ使える | 調達・準備に時間がかからない |
| 経験がある | トラブル時に自力対応できる |
| 再現できる | 属人化しない |
| タクトに合う | 必要数量を止めない |

部品枯渇まで3か月の進め方

| フェーズ | 期間 | 目的 |
|---|---|---|
| 検討 | 1か月 | 方針決定・切り捨て |
| 実験 | 1か月 | 成立条件の確認 |
| 量産化 | 1か月 | 安定供給 |
実験で一番つらかったのは平常心
・正解が見えない
・周囲から急かされる
・組み合わせは膨大
必要数量から生まれたタクト制限

品質と同時に、
タクト制約も守る必要がありました。
材料の特性 × 人の特性

材料の特性と人の特性の関係
| 観点 | 内容 | 生産技術としての捉え方 |
|---|---|---|
| 材料の特性 | クセ、反応の仕方、扱いやすさの違い | 数値化しにくいが、挙動を理解すれば予測できる |
| 人の特性 | 得意・不得意、感覚の違い、作業の癖 | 経験により差が出るが、適材適所で活かせる |
| 両者の関係 | 材料と人の相性 | 無理に統一せず、組み合わせで安定を作る |
| 最終結果 | 安定した手作り生産 | 属人化ではなく「管理された手作り」 |
なぜ「材料 × 人」で考えたのか
今回のSMT後組み立てはんだ付けでは、
- 材料そのものにクセがある
- 作業者ごとに感覚や得意分野が違う
という現実がありました。
そのため、
- 材料のクセを無理に消そうとする
- 人を一律に同じ作業に当てはめる
といったやり方では、
安定した生産は成立しません。
生産技術として取った考え方
そこで採ったのが、
材料の特性と人の特性を「掛け算」で考える
という発想です。
- この材料は、どんな反応をするか
- この人は、どんな感覚を持っているか
を理解した上で、
- 相性の良い組み合わせを作る
- 無理な統一はしない
- ただし判断基準や限度は共通化する
という進め方を取りました。
「属人化」との違い
一見すると、
「人に依存している」「属人化している」
ように見えるかもしれません。
しかし実際には、
- 材料の特性は整理されている
- 作業の判断基準は明確
- 限度見本・管理方法は共通
つまり、
👉 感覚は使うが、判断は個人任せにしない
状態を作っていました。
なぜ安定した手作り生産が可能になったのか
- 材料を理解した
- 人を理解した
- 両者を無理に平均化しなかった
その結果として、
材料の特性 × 人の特性
= 安定した手作り生産が成立しました。
感覚作業を定量化する

| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 感覚が必要 | 濡れ広がり・材料挙動 |
| 定量化 | 時間・順序・判断基準 |
| 共通化 | 手順・確認ポイント |
作業方法の標準化
- 実演
- 動画
- 手順書
限度見本と管理方法
| 区分 | 目的 |
|---|---|
| 良品 | 判断基準 |
| 限度 | 迷い防止 |
| NG | 流出防止 |
メカ部品との勘合確認(図解)

開発・電子実装・メカ・信頼性の関係整理表
| 立場 | 主な役割 | 生産技術との関係 |
|---|---|---|
| 開発 | 回路・子基板の設計、仕様決定 | 設計意図を理解し、量産成立に落とす |
| 電子実装 | SMT工程、実装品質の確保 | 実装後工程を見据えた条件作り |
| メカ | 構造設計、勘合・組み付け | 実装状態が組み付けに影響しないか確認 |
| 信頼性 | 試験・評価、長期品質の確認 | 条件が妥当かを最終的に裏付け |
| 生産技術 | 全体成立の責任 | 各部門をつなぎ、成立点を作る |
生産技術は「真ん中」に立つ役割
今回の取り組みでは、
生産技術は単に「工程を考える担当」ではありませんでした。
- 開発の設計意図を理解する
- 電子実装の現実を把握する
- メカの勘合条件を確認する
- 信頼性試験を見据えて判断する
これらを 同時に考える必要 がありました。
なぜ部門ごとに分けて進めなかったのか
もし、
- 開発は開発
- 電子は電子
- メカはメカ
と分けて進めていたら、
- 後工程での手戻り
- 勘合不良の再発
- 信頼性試験でのNG
が発生していた可能性が高いです。
そのため今回は、
最初から同時並行で確認し、すり合わせる
進め方を取りました。
生産技術が「左右と上下」を見る理由
この関係は、次のように考えています。
- 左右:
- 電子実装 ⇔ メカ
→ 現場と構造の両立
- 電子実装 ⇔ メカ
- 上下:
- 開発 ⇔ 信頼性
→ 設計意図と品質保証
- 開発 ⇔ 信頼性
生産技術は、その 交点 に立ち、
「どこか一つだけが正しい」状態ではなく
「全部が成立する点」 を探します。
今回の経験から感じた生産技術の本質
生産技術とは、
- 自分の担当範囲だけを見る仕事ではない
- どこか一部を最適化する仕事でもない
製品として成立するかを、最後まで見る仕事
だと、この経験で強く感じました。
若手の方への補足メッセージ
生産技術を目指すなら、
- 設計の話を聞く
- 現場で手を動かす
- メカとも会話する
- 信頼性の結果を見る
これらすべてが、将来必ずつながります。
管理職向けの一段高い視点
部門間の壁を越えるには、
- 生産技術に裁量を持たせる
- 部門間の会話を止めない
- 「後で調整」を許さない
この環境づくりが、非常時に効きます。
信頼性試験をパスして初めて成立

| 項目 | 確認 |
|---|---|
| 電気 | OK |
| 勘合 | OK |
| 生産性 | OK |
| 標準化 | OK |
| 信頼性 | OK |
生産技術とは何か

限られた条件で
「作れる・続けられる・止まらない」状態を作る仕事。

現場作業 × 生産技術
どちらか一方では成立しませんでした。
19. 若手の方へ
現場で考え、手を動かした経験は、
必ず将来の引き出しになります。
管理職の方へ
非常時に効くのは、
経験を活かせる環境づくりです。
まとめ

今回の取り組みは、
現場作業と生産技術、両方の経験を凝縮した活動でした。
非常時ほど、
日々の経験が力になります。


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