はんだ材料の選定で最も重要な「融点」の基礎から、SAC305と低温はんだの違い・使い分けまでを一覧表付きで解説します。
「217℃」という数字だけを見て温度を決めると、鉛フリーはんだは溶けきりません。
鉛フリー標準のSAC305は、217℃で溶け始めて、220℃で完全に液体になります。この3℃のあいだは、固体と液体が混ざったシャーベットのような状態です。見た目は溶けているのに流れず、濡れ広がってくれません。イモはんだやブリッジが出るのは、この領域を抜けきれていないときです。
つまり現場で見るべき数字は、溶け始める217℃ではなく溶けきる220℃のほうです。鉛入りの共晶はんだが183℃の一点でパッと溶けていたのに比べ、鉛フリーが「扱いにくい」と言われるのは、この幅があるからです。
先に答えを言うと、代表的なはんだの融点は共晶はんだ(Sn63/Pb37)が183℃、鉛フリー標準のSAC305が217〜220℃、低温のSn-Bi系が約139℃です。詳しい合金別の温度は記事内の一覧表で確認できます。
| はんだの種類 | 代表組成 | 融点 |
|---|---|---|
| 共晶はんだ(鉛入り) | Sn63 / Pb37 | 183℃ |
| 鉛フリーはんだ(標準) | SAC305(Sn-3.0Ag-0.5Cu) | 217〜220℃ |
| 低温はんだ | Sn-58Bi | 約139℃ |
✅ 共晶点と固液共存の仕組み・なぜ融点が重要なのか
✅ 鉛フリーはんだ(SAC305)の融点と特性
✅ 低温はんだの融点一覧と用途別の使い分け
✅ 温度上昇が部品・基板に与えるリスクと対策の考え方
✅ 現場ではんだ合金を正しく選定するためのポイント
はんだ合金組成・融点一覧表
主要なはんだ合金の組成と融点を一覧にまとめました。なお「ハンダ」「半田」と表記されることもありますが、すべて同じものです。現場では合金名(Sn63Pb37、SAC305など)で呼び分けるのが確実です。

用途別に分類しました。ご自身の使用しているはんだの「液相線」を確認してみてください。
① JEITA推奨・標準系(SAC305・高信頼性)
| 合金組成(wt%) | 固相線(℃) | 液相線(℃) | 備考 |
| Sn-3.0Ag-0.5Cu | 217 | 220 | 業界標準 (SAC305) |
| Sn-Ag3.5-Cu0.75 | 218 | 219 | 共晶点に近い |
| Sn-3.5Ag | 221 | 221 | 共晶点 |
| Sn-3.9Ag-0.6Cu | 217 | 226 | 銀多め |
② 低銀・低コスト系(Sn-Cu系・低Ag)
銀を減らしコストダウン。融点が少し高く、濡れ性が落ちるため条件出しが重要。
| 合金組成(wt%) | 固相線(℃) | 液相線(℃) | 備考 |
| Sn-1.0Ag-0.5Cu | 217 | 227 | 低Ag (SAC105等) |
| Sn-0.3Ag-0.7Cu | 217 | 227 | 超低Ag |
| Sn99.3-Cu0.7 | 227 | 228 | 銀なし (Sn-Cu) |
| Sn-0.75Cu | 227 | 229 | 銀なし |
③ 低温はんだ系(Sn-Bi / MILATERA等)
150℃以下の低温実装が可能。
| 合金組成(wt%) | 固相線(℃) | 液相線(℃) | 特徴 |
| Sn-58Bi | 139 | 141 | MILATERA L20等 (標準) |
| Sn42-Bi58 | 139 | 139 | 共晶低温 |
| Sn91-Zn9 | 198 | 198 | 亜鉛系 |
④ その他・特殊用途(Sb入り・高温系など)
| 合金組成(wt%) | 固相線(℃) | 液相線(℃) |
| Sn-5.0Sb | 238 | 242 |
| Sn-10Sb | 246 | 258 |
| Sn-0.3Bi-0.7Cu-P | 226 | 229 |
| Sn-0.7Cu-Ni-P | 226 | 229 |
「なんとなく」の温度設定から卒業する
融点や合金の特性を正しく理解していないと、いつまでたっても「原因不明の不良」はなくなりません。 JTEXの通信講座(金属材料・品質管理コース)なら、合金の基礎から体系的に学べるため、トラブル発生時に「なぜ割れたのか」を論理的に説明できるようになります。
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基礎知識:扱いやすい「共晶点」と「固液共存」

魔法の温度「共晶点(きょうしょうてん)」
かつての鉛入りはんだ(Sn63/Pb37)が優れていた理由は、「共晶組成」だったからです。 スズ単体(232℃)や鉛単体(327℃)よりも大幅に低い183℃という一点で、瞬時に液体化・固体化します。
ドロドロとした半溶融状態(ペースト状)がないため、冷却時に「スパッ」と固まります。
部品浮きやブリッジ不良が起きにくく、手はんだのリペア作業でも非常に重宝されました。
鉛フリー特有の「固液共存領域」
一方、多くの鉛フリーはんだは、溶け始めと溶け終わりに温度差があります。
この間の温度帯では、はんだはシャーベット状(固液共存)になっています。
現在のSMTでは、この「液相線」以上の温度を確実に確保しないと、「未溶融(冷えはんだ)」や接合不良の原因となります。
鉛フリー標準「SAC305」の融点は217〜220℃

現在の鉛フリーはんだで最も広く使われているのが、JEITA(電子情報技術産業協会)が推奨するSAC305です。組成はSn-3.0Ag-0.5Cu(錫96.5%/銀3.0%/銅0.5%)で、融点は固相線217℃・液相線220℃。共晶はんだ(183℃)より約35℃高いため、リフロー炉の設定温度も上げる必要があります。
リフロープロファイルの組み方(TAL・冷却速度・炉内酸素濃度)や、現場でのトラブル対策は別記事で詳しく解説しています。
▶ SAC305とは?組成・融点217℃と現場での扱い方
現場では「220℃に届いた」だけでは足りない
一覧表の220℃は、「そこから液体になる」という線です。「そこで付く」という意味ではありません。
そのため現場の管理は、温度そのものではなく220℃を超えている時間で見ます。私が見てきた実装ラインの条件は、ピーク温度は245℃以内、220℃を超えている時間は30秒以上でした。
この2つを並べると、条件の狭さが分かると思います。使える帯は220℃から245℃までの25℃しかなく、そのわずかな幅に30秒以上とどまらせるということです。
- 下限(30秒以上)がある理由:220℃を超えた瞬間に濡れが完了するわけではありません。溶けたはんだが電極とランドに広がり、金属どうしがつながるまでには時間が要ります。短いと、見た目は溶けていても接合が浅いままになります。
- 上限(245℃以内)がある理由:はんだではなく、載っている部品と基板のほうが耐えられないからです。245℃という数字は、はんだの都合ではなく部品の都合で決まります。
温度プロファイルの調整が難しいと言われるのは、この25℃の帯を、基板の端から端まで、大きい部品でも小さい部品でも成立させないといけないからです。温まる速さが違うので、片方に合わせるともう片方が外れます。
具体的なプロファイルの組み方は、別の記事にまとめています。

注目の低温技術:千住金属「MILATERA」

「省エネ」や「熱対策」で注目されるSn-Bi(スズ・ビスマス)系の低温はんだ(例:千住金属工業「MILATERA」など)は、実は「共晶」に近い特性を持っています。
| 項目 | 内容 |
| 主な組成 | Sn-58Bi (LEOシリーズなど) |
| 融点 | 139℃~141℃ (共晶点は138℃) |
融点幅が極めて狭く、共晶はんだのように低温でキレの良い溶融・凝固をします。
リフローピーク温度を180~200℃に抑えられるため、
部品への熱ストレス低減、基板反りの抑制、CO2削減に貢献します。
その「マニアックな知識」が武器になる
はんだの融点や組成、熱引き(ヒートショック)まで考慮して実装条件を決められるエンジニアは、製造業界では希少な存在です。 もし今の職場でその専門性が評価されていないと感じるなら、一度市場価値を確かめてみてください。実装プロセスの知識がある人材は、好条件で迎えられます。
【重要】選定の分かれ道:強度のトレードオフ

MILATERAなどの低温はんだは、熱的には「扱いやすい共晶系」ですが、機械的特性には注意が必要です。
比較表:SAC305 vs MILATERA (Sn-Bi系)
| 特性 | SAC305 (標準) | MILATERA (Sn-Bi系) | 選定のポイント |
| 溶融挙動 | 固液共存あり (217-220℃) | 共晶に近い (キレが良い) | SAC305は220℃以上の確保が必須 |
| 硬さ・引張強度 | 50-60 MPa | 60-80 MPa | 低温はんだの方が「硬くて強い」 |
| 靭性(粘り) | 高い | 低い(脆い) | 落下衝撃等はSAC305が有利 |
| 熱疲労耐性 | 優れる | 注意が必要 | 温度変化が激しい環境はSAC305 |

よくある質問(はんだの融点)
Q. はんだの融点は何度ですか?
代表値は3つ覚えれば十分です。共晶はんだ(Sn63/Pb37)が183℃、鉛フリー標準のSAC305が217〜220℃、低温のSn-Bi系が約139℃。合金ごとの詳しい溶融温度は上の一覧表を参照してください。
Q. 鉛フリーはんだの融点はなぜ高いのですか?
鉛の代わりに銀・銅を加えたスズ主体の合金(SAC系)になったためです。融点が約35℃上がったことで、部品の耐熱やリフローの温度プロファイル管理が鉛フリー時代の重要テーマになりました。
Q. 高融点はんだとは何ですか?
300℃前後でも溶けない、鉛を90%以上含む合金などを指します。パワー半導体の内部接続など「後工程のリフロー熱で溶けては困る」箇所に使われる特殊品で、一般の基板実装ではまず使いません。
Q. 融点と「溶融温度」は同じ意味ですか?
現場ではほぼ同義で使われますが、厳密には鉛フリーはんだのように「溶け始め(固相線)」と「完全に溶ける温度(液相線)」が異なる合金があります。この差が固液共存領域です。詳しくは記事内の基礎知識の章で解説しています。
SAC305そのものの組成・特性・現場での扱い方は、専用記事で詳しく解説しています。

結論:SAC305と低温はんだ、どう使い分ける?

はんだ材の選定は、「JEITA標準のSAC305」を基準(ベース)にしつつ、熱に弱い部品や省エネが必要な箇所には、特性(硬さと脆さ)を理解した上で「MILATERA等の低温はんだ」を活用するという使い分けが重要です。
昔の共晶はんだの「扱いやすさ」を低温はんだで再現しつつ、最新の技術で信頼性を確保する。 ぜひ、お手持ちのメーカー仕様書(TDS)とこの表を照らし合わせ、最適なプロファイル設定にお役立てください。

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融点や温度の知識は、現場では地味ですが確実に効いてきます。ただ、こうした積み重ねは自分からは見えにくく、周りにも伝わりにくいものです。
現場で覚えたことを形にする方法と、現場で働き続けることそのものについて、私の経験を書いた記事があります。



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