「なぜなぜ分析は意味がない」——そう感じている方は多いと思います。
やっても同じような結論にしかならない。最後は「確認不足でした」「注意します」で終わる。しかも、やっている間はずっと責められている気分になる。
私は製造業で35年働いてきました。いまは現場で課長をしています。提出されたなぜなぜ分析を受け取って、突き返す側です。
その立場から、はっきり書きます。
意味がないのは、手法のせいではありません。使い方が3つのどこかで止まっているだけです。
そして、その3つは全部、直せます。順番に書きます。
突き返す側から見ると、意味をなくす原因は3つです
- ① 深掘りが浅い——人で止まって、仕組みまで届いていない
- ② 早く終わらせたい——犯人を決めれば、その場は終わるから
- ③ 経験がない——どこを掘ればいいのか、そもそも分からない
上位に出てくる解説は、たいてい「なぜを5回繰り返しましょう」と手順を教えています。でも、現場で止まっているのは手順ではありません。この3つのどれかです。
① 深掘りが浅い|「確認不足」で止まる理由
いちばん多いのがこれです。提出されてくる分析が、こうなっています。
なぜ不良が出たか → 作業者が確認しなかったから → 確認不足
ここで終わっています。そして、これは分析ではありません。言い換えをしただけです。
私はこう返します。
- もっと深掘りしてください
- 仕組みができていない部分は、本当にないですか
この2つだけです。特に大事なのが2つ目です。
「確認しなかった」で止まると、対策は「気をつけます」にしかなりません。でも、そこから先に進むと、こうなります。
- 確認する項目が、そもそも決まっていなかった
- 確認したかどうかを、誰も見ていない仕組みだった
- 確認する時間が、工程に入っていなかった
- 前工程から流れてくる時点で、判別がつかない状態だった
ここまで来て、はじめて対策が打てます。人に「気をつけろ」と言うのではなく、仕組みを変えられるからです。
なぜなぜ分析が意味を持つかどうかは、「人」で止まるか「仕組み」まで行くかで決まります。
② 早く終わらせたい|これが「吊るし上げ」の正体です
ここは、いちばん正直に書いておきたいところです。
「なぜなぜ分析はパワハラだ」「吊るし上げだ」と言われることがあります。そう感じている人は、実際にいます。
なぜそうなるのか。理由は2つあると思っています。
一つは、経験のない人がやると、そちらの方向に行きやすいからです。
どこを掘ればいいか分からないと、目の前にいる人を掘るしかなくなります。「なぜ確認しなかったのか」「なぜ気づかなかったのか」——問いが全部、人に向きます。本人にそのつもりがなくても、受けている側からすれば尋問です。
もう一つは、適当に終わらせたいときです。
これは、はっきり言えば手抜きです。犯人を決めれば、その場は終わります。「作業者の確認不足でした。再教育します」——この形にすれば、報告書は埋まる。会議も終わる。
でも、何も変わりません。だから同じ不良がまた出ます。そして次のなぜなぜ分析が始まる。この繰り返しが、「意味がない」の正体です。
吊るし上げになっているなぜなぜ分析は、たいてい、早く終わらせたいときです。深掘りする気があれば、人ではなく仕組みを掘ることになるので、詰問にはなりません。
③ 経験がない|掘る場所を知らないだけ
3つ目は、責める話ではありません。単純に、経験の問題です。
なぜなぜ分析は、どこを掘るかを知っている人がやると効きます。逆に、知らない人が5回「なぜ」を繰り返しても、深くはなりません。同じ場所を5回掘るだけになります。
では、どこを掘るのか。そこが次の話です。
そもそも「発生」と「流出」を分けていますか
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
不良が流出したとき、私が考えるのは4つです。
| 原因 | 対策 | |
| 発生 | なぜ、その不良が作られたのか | どうすれば、作られなくなるか |
| 流出 | なぜ、それが外に出てしまったのか | どうすれば、止められるか |
この4つは、別々に考えます。
多くの分析が浅くなるのは、この2つを混ぜているからです。「不良が出た」という1本の線で掘ろうとすると、途中で行き止まります。
でも、分けるとこうなります。
- 発生原因……材料か、設備か、条件か、手順か。作られた側の話
- 流出原因……検査があったのか。あったのに素通りしたのか。そもそも検査項目になかったのか
まったく別の話です。そして、対策も別々に必要です。
発生対策だけでは、また流出します。作らない努力をしても、100%は防げないからです。流出対策だけでは、不良は作られ続けます。
両方書けていない分析は、私は返します。片方しか埋まっていないなら、そこはまだ分析が終わっていません。
掘る場所が2つあると分かるだけで、深さが変わります。「確認不足」で止まることは、まずなくなります。
そして、それぞれに「よく出てくる答え」があります。私の実感では、こうです。
| 原因として多いもの | 対策の方向 | |
| 発生 | 思い込み | 思い込める状態をなくす |
| 流出 | 作業者の感覚に頼っていた | 人の感覚に頼らない仕組みにする |
発生側は、思い込みが本当に多いです。前と同じだと思った。いつもの手順だと思った。そう思える状態があったから、そう思った——という話です。
流出側は、少し性質が違います。多いのは、その工程が作業者の感覚に頼っていたというパターンです。
- 見た目で判断していた
- 手触りや音で「いつもと違う」を見ていた
- 経験のある人なら気づけた、という状態だった
これは、その人が悪いのではありません。感覚に頼らせている状態のほうが問題です。人は必ず疲れますし、交代もします。感覚に頼った検査は、いつか必ず抜けます。
だから流出対策は、人の感覚を仕組みに置き換える方向になります。
- 自動検査を入れる……判断を機械に持たせる
- チェックシートを作る……見る項目と順番を決めて、記録に残す
- 判別できる状態にする……そもそも見分けがつくようにする
「もっと注意して見ます」は、対策ではありません。いまと同じ状態のまま、人の努力だけを増やす話だからです。
発生は「思い込み」から生まれ、流出は「感覚頼み」から生まれる。どちらも人に依存しています。だから、仕組みに変えます。
これが、なぜなぜ分析でたどり着きたい場所です。
記録がなければ、そもそも掘れません
もう一つ、ここを外すとすべてが崩れるというものがあります。
記録と履歴、そしてシリアルを残すことです。
これは地味で、現場では面倒がられます。でも、これがないとなぜなぜ分析は、ほぼ必ず浅く終わります。
理由は2つあります。
一つは、影響範囲を絞れることです。
不良が外に出てしまったとき、どこからどこまでが怪しいのかが分かるかどうかで、そのあとの大きさがまったく変わります。記録があれば、そのロットだけで済みます。なければ、全数を疑うしかありません。
もう一つは、この記事の本題です。
記録がないと、掘る材料がありません。
記録のない現場でなぜなぜ分析をやると、全部が記憶と推測になります。
- 「たぶん、あのときだったと思います」
- 「いつもどおりやっていたはずです」
- 「そこは見ていないので分かりません」
ここから掘れることは、何もありません。だから結局、「確認不足」「思い込み」に戻ってくるんです。人の頭の中しか、探す場所がないからです。
逆に、記録がある現場では全然違います。いつ、どの設備で、どの条件で、誰が、どの材料を使ったのか——それが残っていれば、見比べられます。
良品のときと何が違ったのか。これが分かれば、思い込みではなく事実で話ができます。詰問にもなりません。人に聞く必要が、そもそも減るからです。
なぜなぜ分析ができる現場かどうかは、分析を始める前に決まっています。
同じことが、QCサークルの発表でも起きます。現状把握で止まっている発表の多くは、担当者の調査が甘いのではなく、そもそも掘る材料が現場に残っていないだけです。発表を聞く側から見た話はQCサークルは時代遅れ?発表を聞く側が見ている「くだらない」の正体にまとめました。
AIは使えます。ただし、代われないところがあります
最近は、こういう分析をAIに手伝ってもらう方も増えていると思います。私も使っています。
実際に使ってみて、役に立ったのは3つでした。
- 頭の中を整理できる……バラバラに出てくる事実を、順番に並べ直してくれる
- 文章を分かりやすくできる……現場の言葉のままだと伝わらない部分を、直してくれる
- 考えていなかった策が出てくる……自分の頭になかった選択肢を並べてくれる
特に2つ目は、この記事で書いてきたことと直接つながります。AIは、あなたの現場を知らない読み手そのものだからです。現場の人には通じる言い方が、知らない相手には通じない——そのズレを、教えてくれます。
では、何を代わってもらえないのか。
掘ることそのものは、代われません。
理由は、前の章で書いたとおりです。AIは、あなたの現場の記録を持っていません。
いつ、どの設備で、どの条件で、どの材料を使ったのか——その事実を渡さなければ、AIが出せるのは一般論だけです。「注意喚起を徹底する」「教育を実施する」——まさに、私が突き返している文章になります。
逆に、記録を渡せば使えます。事実さえあれば、整理はAIのほうが速い。ここでも、記録があるかどうかで決まります。
もう一つ、AIが代われないものがあります。この記事で書いた「早く終わらせたい」気持ちです。途中で止めるのは、いつでも人のほうです。AIは、聞けば何回でも答えます。
AIに任せるのは「考えること」ではなく、「整理する」「言葉にする」「見落としを拾う」の3つです。
「思い込み」で終わっている分析も、同じです
「確認不足」と並んで多いのが、「思い込み」です。
なぜ間違えたか → 前のロットと同じだと思い込んでいたから → 思い込み
これも、そこで止まると分析になりません。聞くべきはこの先です。
- なぜ、同じだと思える状態だったのか
- 違うことが、見て分かるようになっていたか
- 前のロットと違うと、誰かが伝える仕組みがあったか
思い込みは、たいてい「思い込める状態」があるから起きます。見た目が同じ、置き場所が同じ、表示が小さい、切り替えの合図がない——そこが直せる場所です。
人の頭の中は直せませんが、状態は直せます。
では、意味のあるなぜなぜ分析とは
ここまでをまとめると、こうなります。
- 掘る先を2つ持つ……発生と流出を分ける
- 人ではなく、状態と仕組みを掘る……「なぜ確認しなかった」ではなく「なぜ確認できない状態だった」
- 早く終わらせようとしない……犯人が決まった時点で、分析は止まります
- 分からなければ、分かる人と一緒にやる……経験がないのは悪いことではありません
回数は、5回でなくて構いません。3回で仕組みに届くこともあれば、7回かかることもあります。5回という数字を守ることが目的ではありません。
私自身、なぜなぜ分析を毎日やっているわけではありません。不良が流出したとき——つまり、放っておくと同じことがまた起きるときに使います。
「うざい」と思われているのは、たぶん突き返す側です
「なぜなぜ分析 うざい」。そう検索している人がいることは知っています。
突き返す側から正直に言うと、うざいと思われているのは、たぶん私のほうです。
そして、うざいと思われるのには理由があります。ここまで書いてきた3つが、そのまま原因になっています。
うざくなるのは、突き返す側に掘る場所が見えていないとき
いちばん多いのがこれです。突き返す側が「どこを掘ればいいか」分かっていないのに突き返すと、言えることが「まだ浅い」「もっと掘って」しかなくなります。
出す側からすれば、何を直せばいいのか分からないまま、同じものを何度も書き直すことになります。それはうざいです。当然だと思います。
掘る場所が見えている人は、「ここが飛んでいる」と場所を指せます。指せないなら、突き返している側の問題です。
うざくなるのは、原因ではなく「誰のせいか」を探し始めたとき
前に「吊るし上げ」と書きましたが、これは早く終わらせたい人が仕切ったときに起きます。
原因を探す場のはずが、納得できる相手を一人決めれば終わる場に変わります。
そうなると「なぜ」は質問ではなく、追い詰めるための道具になります。うざいというより、もう別のものです。
正直に書くと、以前の私も、不良が出ると人のせいにしていました。いまは「誰のせいか」ではなく「何を変えれば防げるか」で考える「原因自分論」を大事にしています。部品の間違いも、部下を叱るのではなく、間違えたらアラームが鳴る仕組みにして防ぎました。この考え方は原因自分論とは?人のせいにしていた現場課長が変わった話に書いています。
うざくなるのは、5回やること自体が目的になったとき
「なぜを5回」は目安であって、ノルマではありません。
3回で本当の原因に届くこともあれば、5回掘っても届かないこともあります。それなのに回数を埋めることが目的になると、後半は「書くための、なぜ」になります。
そして、書いている本人がいちばん、意味がないと分かっています。
やられる側にできることが、ひとつだけあります
突き返されたときに、こう聞いてみてください。
- 「どこが浅いか、場所を教えてください」と聞く。答えられる相手なら、そこを掘れば進みます
- 答えられない相手なら、それは相手の問題です。あなたの掘り方が足りないのではありません
- 「なぜあなたは」ではなく、「なぜこの状態が起きたか」に書き換える。人ではなく状態に「なぜ」を向けます
場所を聞かれて答えられない突き返しは、実は突き返す側が困っているだけです。そこが分かるだけでも、少し楽になると思います。
最後に、ひとつだけ書いておきます。うざいと感じること自体は、たぶん正しい反応です。
うざいのはなぜなぜ分析そのものではなく、やり方のほうです。ただ、それを突き返す側が言うと言い訳になります。まず直すべきなのは、私たちのほうだと思っています。
それでも「意味がない」と感じているなら
最後に、いま実際にやらされていて、つらいと感じている方へ。
「意味がない」と感じているあなたの感覚は、たぶん正しいです。
人を掘るだけの分析、結論が決まっている分析、報告書を埋めるための分析——それらは、実際に意味がありません。あなたが間違っているわけではありません。
ただ、手法そのものが無意味なわけでもありません。発生と流出を分けて、仕組みまで掘れば、同じ不良は本当に止まります。私はそれを見てきました。
もし立場的に変えられるなら、次の分析で「これは発生の話ですか、流出の話ですか」と一言聞いてみてください。それだけで、会議の向きが変わります。
「現場を知らない相手に伝わるか」という話は、昇格試験でもまったく同じです。面接をするのは、あなたの現場を見ていない人だからです。

ここで出てきた用語をひととおり整理したい方は、QC検定3級の範囲がちょうど重なります。

まとめ
- 「意味がない」のは手法のせいではなく、3つのどこかで止まっているから
- ① 深掘りが浅い——人で止まって、仕組みに届いていない
- ② 早く終わらせたい——犯人を決めれば終わる。これが吊るし上げの正体
- ③ 経験がない——掘る場所を知らないだけ。責める話ではない
- 発生と流出を分ける。掘る先は2つある
- 発生は「思い込み」、流出は「感覚頃み」から生まれる。どちらも人に依存している
- 記録・履歴・シリアルを残す。記録がない現場では、分析は必ず記憶と推測になります
- 人の頭の中は直せないが、状態と仕組みは直せる
- 回数は5回でなくていい。仕組みに届いたかどうかがすべて
品質の言葉を体系的に整理したい方は、QC検定の勉強が近道です。私も一度落ちてから受かりました。

「資格を取る意味があるのか」と迷っている方は、こちらもどうぞ。


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