「QCサークルなんて、もう時代遅れだろう」
「発表会のための発表を作らされているだけで、くだらない」
そう思いながら資料を作っている人は、たぶん少なくないと思います。
私は製造業で35年働いてきました。交代勤務を8年、生産技術を20年、法人営業を5年やって、いまは実装(SMT)の現場で課長をしています。QCサークルの発表を聞いて、評価する側です。
その立場から、正直に書きます。
まず、先に言っておきたいことがあります。
「リソースが足りないのにQCサークルまでやるのは厳しい」——これは、私もそう思っています。
ここを否定するつもりはありません。人が減って、生産が詰まっていて、その上で改善活動の時間を取れというのは、実際きついです。「くだらない」と言いたくなる気持ちは、まっとうな感覚だと思います。
そのうえで、聞く側として見ていることを書きます。結論はこうです。
くだらないのはQCサークルではありません。「QCストーリーに乗っていない発表」がくだらないんです。
そして、良い発表と苦しい発表を分けているのは、才能でもやる気でもありません。押さえる順番です。
「時代遅れ」と言われる理由は、だいたい合っています
まず、批判されている中身を確認します。ネットで「QCサークル 時代遅れ」と調べると、だいたい同じことが書いてあります。
- 活動が形骸化している
- 発表会をやること自体が目的になっている
- メンバーのやる気に差がありすぎる
- 就業時間外にやらされる
- 上から降ってきた「やらされ活動」になっている
これらは、間違っていません。私も現場で見てきた景色と大きくは違いません。
ただ、こういう記事を書いているのは、たいてい組織改善のソフトを売っている会社か、ISO認証のコンサルです。だから結論が「形骸化しています。だから正しく運用しましょう」で終わります。
発表を実際に聞いて、評価をつけている人が書いていないんです。
聞く側から見ると、景色は少し違います。同じ「やらされ活動」でも、聞いていて納得できる発表と、途中で何の話か分からなくなる発表が、はっきり分かれます。その差は、やる気の差ではありません。
私が「これはダメだ」と思う発表は、2つです
たくさんあるわけではありません。私が引っかかるのは、この2点です。
① 5W1Hができていない
② メンバー全員の参加になっていない
どちらも、突き詰めると同じことを指しています。QCストーリーに乗っていない、ということです。
QCストーリーというのは、改善を進めるときの順番のことです。ざっくり言うと、こうなっています。
- テーマを選ぶ
- 現状を把握する
- 目標を決める
- 要因を解析する
- 対策を立てて、実施する
- 効果を確認する
- 標準化して、歯止めをかける
- 振り返って、次につなげる
「型にはめるなんて古い」と言われることもありますが、これは形式のためにあるのではありません。この順番でしか、改善は他人に説明できないからです。
① 5W1Hができていない
いちばん多いのがこれです。
発表は聞いているのに、いつ・どこで・何が・どのくらい起きているのかが出てこない。「不良が多いので減らします」で始まって、「対策しました」で終わる。
- いつ(When)……特定の時間帯なのか、ロットが変わったときなのか
- どこで(Where)……どのライン、どの工程、どの機種で起きているのか
- 誰が(Who)……特定の担当や特定のシフトに偏っていないか
- 何が(What)……どの現象が、何件出ているのか
- なぜ(Why)……そう考えた根拠は何か
- どのように(How)……どんな条件のときに出るのか
これが押さえられていないと、聞いている側は判断のしようがありません。良いとも悪いとも言えない。だから「で、結局どこで出てるの?」という質問しか出てこなくなり、発表した側も「詰められた」と感じる。両方が消耗します。
5W1Hというと基礎的すぎて拍子抜けするかもしれませんが、逆です。ここが埋まっていない発表は、その先が全部あやふやになります。
② メンバー全員の参加になっていない
もうひとつが、一部の人だけで作られた発表です。
聞いていると分かります。発表者は説明できるけれど、質問がメンバーに飛んだ瞬間に止まる。資料の中身を発表者しか知らない。これは、活動ではなく分担の押しつけになっています。
そしてこうなると、①も自動的にできなくなります。5W1Hを埋めるには、実際に現場で作業している人の情報が要るからです。一人で机の上で埋められるものではありません。
「QCサークルはくだらない」と言われるとき、実際にくだらないのは、たいていこの状態です。活動そのものではなく、一部の人が、順番を飛ばしたまま発表の形だけ整えていることがくだらないんです。
逆に「これは良かった」と思う発表は、現状把握ができています
では、良い発表は何が違うのか。
私が「これは良かった」と思うものは、共通してひとつです。
現状把握がきちんとされている。
これだけです。特別なことは要りません。
現状把握というのは、「今どうなっているか」を数字と事実で押さえることです。やることは、さきほどの5W1Hを埋めるだけです。どの工程で、どのくらいの頻度で、どんな条件のときに起きているのか。ここが押さえられていると、その先が全部つながります。
- 現状が分かるから、目標が具体的に置ける(「減らす」ではなく「どこをいくつまで」になる)
- 現状が分かるから、要因解析が絞れる(当てずっぽうの要因が並ばない)
- 現状が分かるから、効果確認ができる(前後を比べられる)
逆に言うと、現状把握が甘いと、その後の全部がズレます。目標も要因も対策も、土台がない上に積み上げることになる。だから発表が「がんばりました」で終わってしまう。
QCストーリーに乗っていない発表の多くは、2番目でつまずいたまま先に進んでしまったものです。だから私は、聞くときにまずここを見ます。
現状把握ができないのは、能力の問題ではありません
ここが大事なところです。
現状把握ができていない発表を見ると、「調査が甘い」「もっと真面目にやれ」と言いたくなります。でも、たいていの場合、本人のやる気や能力の問題ではありません。
そもそも、掘るための材料が残っていないんです。
いつ、どのラインで、どの条件で起きたのか。それが記録されていなければ、どれだけ真面目な人が担当しても、現状把握はできません。手元にあるのが「なんとなく最近多い気がする」だけなら、そこから先には進めない。
私はなぜなぜ分析についての記事でも同じことを書きました。記録・履歴・シリアルが残っていなければ、なぜなぜ分析も一般論で止まります。分析を始める前に、勝負はだいたい決まっています。
QCサークルもまったく同じです。
なので、もしあなたのサークルが現状把握で止まっているなら、責めるべきは担当者ではありません。普段から記録が取れる状態になっているかを先に見てください。ここを直すと、次の活動から発表の質が変わります。
そして、記録が残る状態を作るのは、担当者の仕事ではありません。管理職の仕事です。
現場の意識を変えろ、もっと真面目に調べろ、と言う前に、調べられる材料が現場に残っているか。ここを整えるのは、活動をやらせる側の責任だと思っています。
テーマ選定でつまずいている職場は多いと思います
「QCサークル くだらない」で検索すると、テーマ選定を新人に丸投げしているという話が出てきます。テーマも資料も発表も全部押しつけられて、当然やる気が出ない、という流れです。
私の職場では、そういうやり方はしていません。テーマはサークルのメンバーが話し合って決めています。
決め方は、大きく3つあります。
① 方針管理から選ぶ
会社や部署の方針として掲げているものの中から、自分たちの工程で関われるものを選ぶ。上から降ってきたものをそのままやるのではなく、「この方針のうち、自分たちが手を出せるのはここ」と絞る形です。
② 困っていることから選ぶ
現場で実際に困っていること、面倒だと思っていることから選ぶ。こちらのほうが、メンバーの熱量は上がりやすいです。
③ 理想に近づけるために選ぶ
これは開発側などで多い選び方です。今それほど困っているわけではないけれど、「本来はこうあるべき」という姿があって、そことの差を埋めにいく。不良やトラブルを潰す活動とは、少し性格が違います。
この3つ目は、進め方も少し変わります。①②は目の前で起きている問題を潰していく型ですが、③はまだ起きていない理想と現状の差を埋めにいく型です。QCストーリーで言えば、前者が問題解決型、後者が課題達成型にあたります。
ただし、③でも現状把握は要ります。「今どこまで来ているか」を押さえないと、理想との差がどれだけあるのか測れないからです。目指す先が変わるだけで、足元を数字で押さえる作業は同じです。
そして、どの入り口から入る場合でも、大事なのはメンバー自身が選んでいるということです。
選定を人に押しつけた瞬間に、その活動は最後まで「他人の仕事」になります。そして他人の仕事は、現状把握まで踏み込みません。さらに、テーマを選ぶ場に参加していない人は、そのあとの活動にも参加しません。テーマ選定の丸投げは、さきほどの①と②のつまずきを、最初に作り込んでいるのと同じです。
「トヨタが廃止した」は誤りです|変わったのは活動ではなく扱い方
「QCサークル」で検索すると、「トヨタは廃止したらしい」という話が必ず出てきます。
これは事実ではありません。 トヨタは今も世界規模のQCサークル大会を開いていて、活動は続いています。
変わったのは、活動の中身ではなく扱い方です。かつて「自主的な活動」として勤務時間外に行われていたものが、2007年に裁判所で業務にあたると判断され、トヨタは2008年6月から時間外のQCサークル活動に残業代を全額支払うようになりました。
つまり、問題になったのはQCサークルという活動そのものではありません。「自主活動」という名前で、実質的な業務を時間外にやらせていたことです。
きついのは改善活動そのものではなく、時間が用意されていないことです。
なので、あなたの職場のQCサークルが就業時間内なのか、時間外なのか。ここは一度確認しておいて損はありません。時間外に無償でやらされているなら、古いのは活動ではなく、扱い方のほうです。
そして、よその会社がやめたかどうかより、自分の職場で機能しているかを見てください。機能していないなら、まずどこで止まっているのかです。だいたいは現状把握で止まっています。
それでも残っている理由|改善の進め方を練習できる場が、ここしかない
私の職場では、QCサークルは今も残っています。
冒頭に書いたとおり、リソース不足の中でこれをやるのは厳しいと、私自身思っています。それでも残っている理由を、聞く側の本音として書きます。
改善の進め方を、勉強して、実際に経験できる場が、ここしかないからです。
普段の仕事の中で、改善の手順を教わる機会はほとんどありません。日々の業務は「早く直す」ことが優先されるので、現状把握に時間をかける余裕がない。結果として、その場しのぎの対処は上手いが、原因を潰す進め方は知らないという人が育ちます。
QCサークルは、その練習ができる数少ない場です。
- 現状を数字で押さえる練習
- 要因を絞り込む練習
- 対策の効果を確認する練習
- それを、自分より現場を知らない人に説明する練習
最後のひとつが、特に効きます。発表というのは要するに、事情を知らない相手に伝わる形へ整理し直す作業です。この経験があるかないかは、あとで効いてきます。トラブルの報告でも、上への説明でも、昇格試験の場面でも、結局は同じ力を使います。
そしてもうひとつ。
QC検定について書いた記事でも触れましたが、資格を取っただけで使えるようにはなりません。QC検定が知識で、QCサークルがその知識を実際に使う場です。この2つはセットで、片方だけだとどちらも中途半端になります。
「試験用に覚えたけれど使っていない」という人は多いのですが、使う場面がここにあります。QC検定の勉強をこれからする人は、QC検定3級の勉強法もあわせて読んでみてください。
7つ道具の名前は聞いたことがあるけれど中身は説明できない、という状態なら、先に知識を入れておくと発表の組み立てが一気に楽になります。私が一度落ちたあと、2回目で受かったときに使ったのがこの1冊です。
「くだらない」と思っている人へ
最後に、いま資料を作りながら「くだらない」と思っている人に向けて書きます。
その感覚は、間違っていません。 順番を飛ばしたまま発表の形だけ整えている活動は、実際にくだらないです。そこに時間を取られて本業が押しているなら、しんどいのも当然です。
ただ、くだらなくしているのは活動そのものではなく、進め方です。そして直すのは、たぶん1つで足ります。
次の活動で、現状把握にいちばん時間をかけてみてください。
対策を考える時間を半分にしてでも、5W1Hで「今どうなっているか」を押さえる。それだけで、発表の中身は変わります。聞く側からすると、そこができている発表は、対策が地味でも納得できます。逆にそこが無い発表は、対策がどれだけ立派でも判断ができません。
そして、それを一人でやらないでください。5W1Hを埋める材料は、机の上ではなく現場にあります。メンバーに聞いて回るところから始めれば、結果として全員参加の形にもなります。
そしてもうひとつ、私自身への戒めとして書いておきます。
「発表が悪い」と言えてしまうのは、私が聞く側にいるからです。 資料を作る時間を確保できていないのも、記録が取れる仕組みを作れていないのも、本当は管理職側の宿題です。そこを棚に上げて「QCストーリーに乗っていない」とだけ言うなら、それこそが形骸化した評価だと思います。
くだらない発表を減らしたいなら、まず掘るための材料が残る現場にすること。順番はそちらが先です。


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