プリント基板の製品コストと実装品質は、実は基板アートワーク設計の段階でほぼ決まります。回路設計と並ぶ最上流工程であるアートワーク設計次第で、部品費・製造費・不良率が大きく変わるからです。
この記事では、基板実装歴30年の経験をもとに、アートワーク設計でできる実装コストダウンの着眼点と、設計と実装が近くにあることの品質面の強み、外部委託時の注意点までまとめて解説します。
基板アートワーク設計が実装コストと品質を決める理由
基板アートワーク設計は「回路図を配線に落とすだけの作業」ではありません。基板サイズ、部品配置、ランド形状、面付けの取り方——これらの設計判断ひとつひとつが、その後の部品購入費、実装工数、治工具費、不良率に直結します。
実装が始まってから「作りにくい」「不良が出る」と気づいても、アートワーク変更には時間も費用もかかります。だからこそ、設計段階でどれだけ実装を見据えられるかが勝負です。
コストダウンの着眼点1:基板サイズ(定尺・ワークサイズ・取り数)
基板メーカーに見積を依頼したとき、「寸法をあと何mm小さくできませんか?」と言われた経験はないでしょうか。これは、元の基材から基板が何枚取れるかで製品単価が大きく変わるためです。
キーワードは「定尺」「ワークサイズ」「取り数」の3つです。
- 定尺:材料メーカーが基板メーカーに販売する基材の大きさ
- ワークサイズ:定尺を分割した、製造に使う大きさ
- 取り数:ワークサイズから製品基板が何枚取れるか
数ミリの違いで取り数が1列変わると、基板単価は大きく変動します。基板サイズを決めるときは、基板メーカーに「取り数が最大になる寸法」を確認するのがおすすめです。面付け(多面取り)やVカットの配置も、同じ視点で最適化できます。
コストダウンの着眼点2:片面実装に集約する
部品を基板の片面にまとめて実装できれば、大きなコストダウンになります。
- メタルマスクやバックアッププレートなどの治工具が片面分で済む
- リフロー工程が1回減り、人件費・リードタイムが削減できる
両面実装が当たり前になっていないか、設計の初期段階で一度立ち止まって検討する価値があります。
コストダウンの着眼点3:DIP部品(挿入部品)を減らす
DIP工程はまだ人手による部品実装が多く、人件費がかかります。挿入部品を面実装品に置き換えられれば、工程が減るだけでなく、フローパレットなどの治工具費も削減できます。
DIP部品が少しだけ残る場合も、フローはんだではなくセレクティブはんだやはんだ付けロボットを使えば、治工具費と人手工数を抑えられます。
コストダウンの着眼点4:部品選定で後戻りをなくす
「後戻りのないアートワーク設計」を目指すなら、次のような部品は避けるべきです。
- EOL(生産終了)が近い部品:量産後に部品変更、最悪の場合アートワーク変更が必要になる
- 実装難易度が高い部品:設計上は問題なくても、量産で品質バラツキ・歩留まり悪化を招き、製造コストが上がる
基板サイズに余裕があるなら、同じ機能でも実装難易度が低いパッケージを選ぶのが得策です。BGAやQFNを避けられれば、X線検査工程も削減でき、さらに効率化できます。
品質の強み:設計と実装のフィードバックループ
コストと並んで重要なのが品質です。ここで最も強みを発揮するのが、基板アートワーク設計と実装現場が近くにあり、不具合や改善点がすぐ設計にフィードバックされる体制です。
私の職場では20年以上にわたり、生産技術・製造現場からのフィードバックを基板設計データベースとして積み重ねてきました。内容は多岐にわたります。
- ランド寸法・形状(SMT、DIP)
- メタルマスク開口形状
- 部品配置、基板サイズ・面付け・Vカット配置
- 基板ソリ対策、流し方向
- はんだ付け品質、生産方式、プリント基板コスト
これらが設計基準に盛り込まれているため、誰が設計しても高品質な設計と実装が実現でき、社内の実装品質は不良発生5ppm前後で安定しています。新規パッケージは設計・生産技術・製造で意見交換し、重要部品は実験基板で最適条件を確認してから量産に入ります。
試作段階から品質を確認して改善を加え、量産初期から安定した品質で生産できる——これが設計と実装が同じ組織にあることの最大の利点です。
外部にアートワーク設計を委託するときの注意点
社内に設計部門がない場合は外部委託になりますが、設計費の安さだけで選ぶのは危険です。
- 見積内容を必ず詰める:検図承認前の変更でも見積外費用を追加請求される場合がある。どんなときに追加費用が発生するか事前に確認する
- 相見積を取る:同じ仕様でも、配線が雑なメーカーと丁寧なメーカーがある
- 設計者のスキルを確認する:設計者により出来栄えが全く違う。過去の実績や出来栄えを確認する
また、実装工場を持つ設計会社と設計専業の会社では性格が異なります。実装工場を持つ会社は、自社の実装ノウハウが設計に反映されるため設計と実装のギャップが小さく、品質問題が起きたときの責任所在も明確です。設計単価だけでなく、量産までのトータルコストで比較しましょう。
まとめ:設計価格ではなくトータルコストで考える
この記事のポイントを整理します。
- プリント基板のコストと品質は、最上流のアートワーク設計でほぼ決まる
- 基板サイズは定尺・ワークサイズ・取り数を意識して決める
- 片面実装への集約、DIP部品の削減で治工具費・工数を減らす
- 部品選定ではEOL部品と高難度パッケージを避けて後戻りをなくす
- 設計と実装のフィードバックループが品質を安定させる
- 外部委託は設計費の安さではなくトータルコストで判断する
プリント基板の製品コストは、様々な角度からコストダウンの種を探せます。そのほとんどが、実装が始まる前——アートワーク設計の段階に埋まっています。
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