「簿記3級 意味ない」
そう検索して、ここに来られたのだと思います。
先に言っておくと、その疑いは半分当たっています。私も同じことを思いました。
ただ私は、経理を目指して取ったわけではありません。課長になる2年前、いまから4年ほど前に取りました。製造業の現場で30年やってきた人間です。経理部にいたことは一度もありません。
この記事は、経理職を目指していない人が簿記3級を取ると、実際に何が変わるのかという話です。合格法の記事ではありません。
「意味ない」と言われる理由は、当たっている

まずここを認めないと、話が始まりません。
簿記3級は、経理職に就くための武器としては弱いです。
- 合格率は回によって差がありますが、おおむね4〜5割。独学でも数か月で取れます
- 誰でも取れる資格は、それだけでは差になりません
- 経理の求人で「3級が決め手になった」という話は、まず聞きません
「意味ない」と書いている記事は、この一点を指しています。そして、それは事実です。
ただし「簿記3級は簡単だ」という意味ではありません。むしろ簿記3級は難しいと感じました。私は4か月かかっています。同じ時期に取ったFP3級は3か月だったので、簿記のほうが難しかったというのが正直な感想です(詳しくは後半に書きます)。
問題は、簿記3級を「経理になるための資格」としてしか見ていないことです。
私が取った理由は、就職でも転職でもなかった
私が簿記3級を取ったのは、お金の義務教育だと思ったからです。
同じ時期にFP3級も取りました。この2つはセットだと考えています。
| 資格 | 分かるようになること |
|---|---|
| FP3級 | 自分の家計と、制度の話(年金・保険・税金) |
| 簿記3級 | 会社と、投資の話(決算書の成り立ち) |
学校では、どちらも教わりませんでした。でも、大人になってから必要になるのは、こちらのほうです。働きながら資格を取る進め方は、QC検定3級の完全ガイドにもまとめています。
そして具体的な動機が2つありました。
① 自分の会社の経営数値を読めるようになりたかった
毎月のように数字が降りてきます。でも、それが何を意味するのかが分からない。分からないまま「はい」と言っているのが、ずっと気持ち悪かった。
② 個別株を買うのに、決算書を読む必要を感じた
投資をするなら、会社の中身を見て買いたい。そのためには決算書が読めないと話になりません。
どちらも、就職や転職とは関係ありません。
取ってから、いちばん変わったこと
一番大きかったのは、これです。
経営層が言っていることと、実際の数値が合っているかどうかが、自分で判断できるようになった。
これは、想像していなかった変化でした。
「利益が出ていない」が、どの利益の話か分かる
会社の説明で「利益が出ていない」と言われることがあります。
簿記を知らなかった頃は、それを丸ごと受け取っていました。いまは違います。どの段階の利益の話なのかを、まず考えます。
| 利益の種類 | 何を引いた後か |
|---|---|
| 売上総利益(粗利) | 売上 − 売上原価 |
| 営業利益 | 粗利 − 販売費および一般管理費 |
| 経常利益 | 営業利益 ± 営業外の損益 |
| 当期純利益 | さらに特別損益と税金を引いた後 |
どこが苦しいのかで、打つべき手はまったく変わります。粗利が薄いなら値決めか原価の問題です。営業利益が出ていないなら、間接費の問題かもしれません。この考え方はKGI・KPI・限界利益の解説でも詳しく書いています。
ここを区別せずに「利益が出ていないから経費を削れ」と言われても、現場は何をしていいか分かりません。
自社が本当に稼げているのかが見える
もうひとつ大きかったのが、これです。
決算書が読めれば、利益率が出せます。売上に対して、どれだけ手元に残っているのか。そして同じ計算を、同業他社の決算書でもできます。並べてみると、自社の位置が見えてきます。
- 売上が伸びているのに利益率が落ちていれば、安く売って数を追っている
- 利益は出ているのに現金が減っていれば、在庫か売掛金が膨らんでいる
現場にいると、忙しさと、稼げているかどうかは別だということが、なかなか実感できません。ラインが動いていれば、儲かっている気がしてしまう。でも数字を見ると、その2つは必ずしも一致しません。
給料が上がらない理由も、設備投資がなかなか通らない理由も、数字を見ると背景が想像できるようになりました。納得できるかは別として、少なくとも「なぜ」が分かる。それだけでも、受け止め方が変わります。
※ ただし、利益率のような単純な比率までです。ROAや自己資本比率といった本格的な経営分析は、簿記3級の範囲を超えます。
数字の裏づけがない話を、鵜呑みにしなくて済む
会議で数字が出てきたとき、その数字がどこから来たのかを想像できるようになりました。
前提が示されていない話には、素直に質問できるようになりました。以前は、分からないから黙っていました。
ただし、これは「上を疑うため」ではありません
誤解されたくないので、はっきり書いておきます。
目的は、納得して動くためです。
管理職の仕事は、上から降りてきた方針を、部下に説明して動いてもらうことです。自分が腹落ちしていない方針は、部下にも伝わりません。「上がそう言っているから」としか言えない上司の話を、誰が本気で聞くでしょうか。
数字が読めると、自分の言葉で説明できるようになります。そこが決定的でした。
現場の管理職として、具体的に効いた場面
設備投資の話し方が変わった
以前は「500万円かかります」でした。
いまは「耐用年数10年なので、年あたり50万円の負担。それに対して年間の削減効果はいくら」という言い方ができます。
買った年に全額が費用になるわけではない——減価償却という考え方を知っているかどうかで、稟議の書き方が変わります。設備投資そのものの考え方は製造業の設備投資ガイドにまとめました。
在庫の見え方が変わった
在庫は、決算書の上では資産です。数字の上では減りません。
でも、現金はすでに出ています。
「稼働率を上げるために作っておこう」が何を起こすのか。感覚ではなく、構造として理解できるようになりました。
どこに無駄があるかが、自分で見えるようになった
先ほど「利益が出ていないから経費を削れ、と言われても現場は困る」と書きました。逆に言えば、どこを削ればいいかが自分で見えていれば、困りません。
決算書には販売費および一般管理費(販管費)という項目があります。その中身の構造が分かると、現場で当たり前になっている支出に目が向くようになります。
- 惰性で続いている契約
- 使っていないのに払い続けているもの
- 「昔からそうだから」で毎年出ていくもの
どれも、日々の業務の中では見えません。金額として並べて初めて気づきます。
そして大事なのはここです。言われて削るのと、自分で見つけて削るのとでは、部下への説明がまったく違います。前者は「上がうるさいから」になり、後者は「これは要らないから」になります。動いてもらえるのは、後者だけです。
費用と資産の線引きが分かった
治具や工具、設備の改造費。それがその年の経費なのか、何年もかけて償却するものなのか。
経理と話す前に見当がつくので、余計なやり取りが減りました。
期待してはいけないこと
ここは正直に書きます。簿記3級で分かることには、はっきりした限界があります。
| 3級で分かるか | |
|---|---|
| 決算書(PL・BS)の成り立ち | ✅ 分かる |
| 減価償却・引当金・経過勘定 | ✅ 分かる |
| 在庫が売れるまで費用にならないこと | ✅ 分かる |
| 自社の製造原価 | ❌ 範囲外 |
| 経営分析(ROA・自己資本比率など) | ❌ 範囲外 |
簿記3級は商業簿記だけです。工場の製造原価を扱う工業簿記は、簿記2級の範囲です。
ですから「簿記3級を取れば、うちの工場の原価が読める」とは言えません。そこまで行きたいなら簿記2級が必要です。
もう一つ。簿記3級は「決算書の読み方」ではなく「決算書の作られ方」を学ぶ資格です。作られ方が分かった結果として読めるようになる、という順番です。
そして繰り返しますが、転職の武器としては弱いです。そこを期待して取ると、たぶん「意味なかった」になります。製造業でのキャリアの考え方は採用する側の課長として書いた転職ガイドにまとめました。
簿記3級が何に役立つのか——それは肩書きではなく、日々の判断の質でした。履歴書に書けることより、そちらのほうがはるかに大きかったというのが実感です。
私生活でも効いた
個別株を買うときに、決算書を見て判断できるようになりました。
売上が伸びているのに利益が減っている会社。利益は出ているのに現金が減っている会社。そういう違和感に気づけるようになったのは、簿記3級のおかげです。
※投資の判断はご自身の責任でお願いします。私は専門家ではありません。
どのくらいで取れるか(私は4か月かかりました)
一般的な目安は「100時間前後、2〜3か月」とされています。
私は4か月かかりました。同じ時期に取ったFP3級が3か月だったので、簿記のほうがはっきり難しかったというのが実感です。
理由もはっきりしています。簿記は、覚えるだけでは解けないからです。仕訳が体に入っていないと、問題文を読んでも手が動きません。読んで分かった気になっている段階では、点になりませんでした。
使った教材は5つ
| 教材 | 役割 |
|---|---|
| ふくしままさゆきさんのKindleテキスト | 軸にした本体。これを読みながら進める |
| 同じ方のYouTube動画解説 | 詰まったところを動画で埋める |
| みんなが欲しかった!簿記の教科書 | 別の説明で読み直して確認 |
| みんなが欲しかった!簿記の問題集 | 手を動かして解く |
| パブロフ簿記(スマホアプリ) | 空き時間に仕訳を反復 |
軸はふくしまさんのKindleテキストとYouTubeの組み合わせでした。テキストを読んで詰まったら、同じ範囲の動画を見る。この行き来がいちばん効率的でした。
「みんなが欲しかった!」シリーズは、同じ内容を別の言い方で読み直すために使いました。1冊で腑に落ちなかったところが、別の本の説明ですっと入ることがあります。
時間の作り方は「朝活と昼休み」
まとまった時間は取れません。働きながらなら、当たり前だと思います。
| いつ | 何を |
|---|---|
| 朝 | テキストと動画(頭が動くうちに理解を進める) |
| 昼休み | 問題集(短時間で区切りやすい) |
| 空き時間 | スマホでパブロフ簿記(仕訳の反復) |
アプリが効きました。簿記は仕訳の反復がすべてなので、5分でもできることに意味があります。机に向かう時間だけを勉強時間と考えていたら、4か月では終わらなかったと思います。
独学が向かない人もいます
ここまで独学の話をしてきましたが、独学がいつでも正解というわけではありません。
私は独学で取りましたが、4か月かかっています。しかも仕訳でつまずいたときは、抜け出すのにずいぶん時間を使いました。誰かに聞ければ5分で済んだことに、何日もかけた記憶があります。
独学は「安いけれど、時間がかかる」方法です。そこは正直に書いておきます。
- 何を買えばいいかを調べる時間も惜しい
- 一人だと、つまずいたときにそこで止まってしまう
- 期限を決めないと続かない
こういう自覚がある方は、時間をお金で買う選択もあります。私が4か月かけた道を、もっと短くできるかもしれません。
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独学でつまずきそうなら、講座という選択もあります
資格の大原は簿記講座の老舗です。資料請求は無料なので、独学を続けるか講座にするかを迷っている段階でも、費用と期間を比べてみる価値はあります。
まとめ
- 「意味ない」と言われる理由は当たっている。経理職に就く武器としては弱い
- ただしそれは、「経理になるための資格」としてしか見ていないから
- 私が取った理由は「お金の義務教育」。FP3級とセットで考えた
- 取って一番変わったのは、経営層の説明と実際の数値が合っているか、自分で判断できるようになったこと
- ただしそれは上を疑うためではなく、納得して部下に説明するため
- 自社が本当に稼げているのかが見える。忙しさと利益は一致しない
- どこに無駄な経費があるかも見える。言われて削るのと、自分で見つけて削るのは、部下への説明がまったく違う
- 現場では、設備投資の話し方・在庫の見え方・費用と資産の線引きが変わった
- 製造原価は範囲外(簿記2級の工業簿記)。経営分析も範囲外
- 転職の武器としては弱い。そこを期待すると「意味なかった」になる
簿記3級を取ってよかったと思うのは、履歴書に1行増えたからではありません。会社の数字が読めるようになったこと、それだけです。ただ、そのメリットは想像よりずっと大きいものでした。
経理を目指していないなら、簿記3級は資格ではなく、道具として考えたほうがいいと思います。
数字が読めない管理職は、上から降りてきた話を、そのまま下に流すことしかできません。それをやめられたことが、私にとっての「意味」でした。




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