SMTの現場で「SAC305(サックさんまるご)」という言葉を聞かない日はありません。鉛フリーはんだの事実上の標準として、国内の電子機器実装で最も広く使われている合金です。
この記事では、SAC305の組成の意味・融点・特性を、現場管理職の視点で解説します。カタログの数値を並べるだけでなく、「なぜこの合金が標準になったのか」「現場で何に気をつけるべきか」まで踏み込みます。
✅ SAC305という名前の意味(数字の由来)
✅ 融点217〜220℃と「固液共存領域」の意味
✅ 有鉛はんだから置き換わった理由と、そのトレードオフ
✅ 低銀・無銀タイプ(SAC0307・SN100Cなど)との使い分け
✅ 現場で失敗しないための実務ポイント
SAC305とは|結論から3行で

名前の由来はシンプルです。SACは Sn(スズ)・Ag(銀)・Cu(銅)の元素記号の頭文字。続く「305」はAg 3.0%、Cu 0.5%を表しています。つまりSAC305と書いた時点で、組成がそのまま読み取れる命名になっています。
同じ考え方で、SAC405ならAg 4.0%・Cu 0.5%、SAC0307ならAg 0.3%・Cu 0.7%です。名前を見れば銀の量が分かるので、コストの見当もつきます。
なぜこの配合なのか|各元素の役割
- Ag 3.0%:接合強度と熱疲労寿命を高める中核。銀を減らすと材料費は下がるが、熱サイクル寿命も落ちる
- Cu 0.5%:銅パッドとの反応を制御し、金属間化合物(Cu₆Sn₅など)の成長を適度に抑える。多すぎると硬く脆くなる
- Sn 96.5%:ベースとなる主成分。スズの酸化挙動が保管・使用環境の管理に関わる
Cuが銅パッドと反応してIMC(金属間化合物)を形成することは、接合の信頼性を支える重要な仕組みです。ただしIMCは成長しすぎると脆くなるため、過剰な熱履歴は避ける必要があります。
現場で使う数値まとめ
| 項目 | 値 | 現場での意味 |
|---|---|---|
| 組成 | Sn 96.5% / Ag 3.0% / Cu 0.5% | JEITA推奨の業界標準組成。メーカー間の差はほぼない |
| 固相線 | 約217℃ | ここから溶け始める |
| 液相線 | 約220〜221℃ | 完全に液体になる。リフローは必ずこれを超える |
| 溶融温度幅 | 約3℃ | 固液共存域。完全共晶ではない |
| 密度 | 約7.4 g/cm³ | はんだ使用量・コスト計算の基礎 |
| 引張強度 | 40〜50 MPa | 接合部の機械的強度の目安。Sn-Cu系より高い |
| 伸び | 20〜30% | 衝撃・曲げに対する「粘り」の指標 |
| 熱膨張係数 | 約23〜24 ppm/℃ | 基板・部品との膨張差が熱疲労に影響 |
融点217〜220℃の意味|「溶け始め」と「溶けきり」

SAC305の融点はよく「217〜220℃」と幅を持って表記されます。これは測定のばらつきではなく、溶け始める温度(固相線217℃)と、完全に液体になる温度(液相線220℃)が異なるためです。
この3℃の幅が固液共存領域です。この温度帯では、はんだは半分溶けたシャーベットのような状態になります。有鉛の共晶はんだ(Sn63/Pb37)が183℃でスパッと溶けるのとは、挙動が異なります。
合金ごとの融点を一覧で比較したい場合は、こちらの記事にまとめています。

なぜSAC305が標準になったのか

2006年のRoHS指令をきっかけに鉛の使用が制限され、業界は代替合金を探しました。その中でSAC305が生き残った理由は3つあります。
- Sn-Ag-Cu系の三元共晶に近い組成:217℃付近で安定して溶け、融点が実用的な範囲に収まる
- 接合強度と熱疲労特性のバランス:銀が3%入ることで金属間化合物が適度に生成し、繰り返しの熱サイクルに耐える
- 材料・装置の供給体制:各社が対応品を揃え、リフロー炉のプロファイルも標準化された
ここで決定的だったのが業界標準化の必要性です。各社がバラバラの合金を使うと、部品・基板・はんだの組み合わせ評価が膨大になり、実装側も部品メーカーも負担が跳ね上がります。材料供給側も複数合金を抱えればコストと品質ばらつきのリスクを負う。「1種類に収束させたい」という業界全体の力学が働きました。
その結果、2000年にJEITA(電子情報技術産業協会)がSAC305を業界標準組成として推奨。2003年のRoHS指令で鉛フリー化が加速する中、家電・AV機器を中心に一気に普及し、日本の実装業界のデファクトスタンダードになりました。
要するに「特別に優れている」というより、実用上の欠点が最も少なく、かつ業界が足並みを揃えられた合金が標準として定着した、というのが実態です。2010年代以降は銀価格の高騰で低銀・銀レス品も登場しましたが、信頼性を重視する用途では今もSAC305が基準として扱われます。
有鉛はんだからの置き換えで起きたこと

| 項目 | 共晶はんだ Sn63/Pb37 | SAC305 |
|---|---|---|
| 融点 | 183℃(共晶点でスパッと溶ける) | 217〜220℃(固液共存あり) |
| リフロー ピーク温度 | 概ね210〜230℃ | 概ね235〜250℃ |
| ぬれ性 | 良好 | 有鉛よりやや劣る |
| 外観 | 光沢がある | 白くくすんだ艶消しが正常 |
| コスト | 安い | 銀を含むぶん高い |
現場で最初に混乱するのが外観です。SAC305の正常な仕上がりは、有鉛のようなツヤがなく、白っぽくザラついて見えます。これを「不良では?」と誤判定する事例は、鉛フリー移行期に非常に多く見られました。艶がないのは異常ではありません。
もう一つが熱負荷です。ピーク温度が20℃前後上がるため、部品や基板への熱ストレスが増えました。温度プロファイルの管理が品質を左右する時代になったのは、この変化が背景にあります。

見落としやすい落とし穴|2工程リフローでの再溶融

モジュール実装などで2回リフローを通す設計では、SAC305特有の注意点があります。1回目もSAC305で組んでいると、2回目のプロファイルで1回目のはんだが再び溶けてしまうのです。
その結果、部品がずれる、最悪の場合は落下します。基板を裏返して流す工程があるなら、なおさら深刻です。
- 対策1:融点差を使う— 1回目に高温はんだ(Sn-Sb系など)、2回目にSAC305を使い、2回目の熱で1回目が溶けないようにする
- 対策2:熱履歴の合計を管理— TALは1回目と2回目で別々に管理し、合計の熱負荷が部品の耐熱上限を超えないかを確認する(多くの部品でリフロー2回までが推奨)
- 対策3:接着剤の併用— 部品保持が必要な箇所には、はんだ以外の固定手段も検討する
この「再溶融」は、試作では問題なく通っていたのに量産で不良が出る、という形で表面化しがちです。設計段階で工程順を決めるときに、必ず融点の関係を確認してください。
低銀・無銀タイプとの使い分け

SAC305の弱点は銀のコストです。銀価格が上がると材料費に直撃するため、銀を減らした代替合金が使われる場面があります。
| 合金 | 組成の特徴 | 主な使いどころ |
|---|---|---|
| SAC305 | Ag 3.0%・Cu 0.5% | 汎用。信頼性を重視する製品全般 |
| SAC105 | Ag 1.0%・Cu 0.5% | コスト重視の民生品。SAC305より機械的強度・熱疲労寿命は劣る |
| SAC0307 | Ag 0.3%・Cu 0.7% | コスト重視。銀を大幅に削減 |
| SN100C系 | Sn-Cu-Ni(銀なし) | フロー(噴流)はんだ付けで多用 |
| SAC405 | Ag 4.0%・Cu 0.5% | 銀を増やし信頼性重視(採用は限定的) |
| Sn-Bi系(低温) | ビスマス添加 | 熱に弱い部品向け。リフロー温度を40〜50℃下げられる |
| Sn-Sb系(高温) | アンチモン添加 | 2工程リフローの1回目用。再溶融を防ぐ |
注意したいのは、「安いから」だけで低銀品に切り替えると、ぬれ性や接合強度が変わる点です。特に落下衝撃や熱サイクルが厳しい製品では、必ず評価してから採用してください。合金選定の考え方はこちらで詳しく解説しています。

手はんだ・試作でSAC305を使うなら

量産ラインではペーストやソルダーバーで供給されますが、試作や手直し、電子工作でSAC305組成の糸はんだが必要になる場面もあります。市販品では「Sn-3Ag-0.5Cu」と表記されているものが、まさにSAC305と同じ組成です。
私が試作や修正作業で使っているのは、線径0.6mmのタイプです。細めなので細かい部品でも扱いやすく、フラックス入りで初心者でも流しやすい構成になっています。
なお前述の通り、有鉛はんだと混在させないこと。こて先も分けるのが原則です。
現場でSAC305を扱うときの実務ポイント

① リフロープロファイルはTALと冷却速度で管理する
SAC305のプロファイル設計で管理すべき数値は、ピーク温度だけではありません。TAL(Time Above Liquidus=217℃以上にある時間)と冷却速度の3点セットで見るのが実務です。
| 管理項目 | 推奨範囲 | 外れたときのリスク |
|---|---|---|
| TAL(217℃以上) | 60〜90秒(許容60〜120秒) | 短い→未溶融・ぬれ不足・IMC形成不足 長い→フラックス枯渇によるはんだボール、基板・部品の劣化 |
| ピーク温度 | 235〜250℃(上限260℃) | 低い→接合強度不足/高い→部品損傷・基板反り |
| 昇温速度 | 3℃/秒 以下 | 急昇温は部品・基板への熱衝撃 |
| 冷却速度 | 2〜4℃/秒 | 急冷→接合部クラック(BGA・MLCCで顕著) 緩冷→結晶粒の粗大化で強度低下 |
| 基板内温度差 ΔT | 10℃以内 | 大きいと部分的な未溶融や過加熱が同時発生 |
コツはピーク温度とTALのバランスです。ピークが高め(245〜250℃)ならTALは短め(45〜75秒)、ピークが低め(230〜235℃)ならTALは長め(75〜90秒)に振ります。どちらか一方だけを見て調整すると、必ずもう一方が破綻します。
② ピーク温度は実基板で必ず実測する
液相線220℃に対して、実務ではピーク235〜250℃のプロファイルが一般的です。ただし部品の耐熱、基板の厚み、ランド面積で最適値は変わるので、必ず実基板で温度実測してください。カタログのプロファイルをそのまま使うのは危険です。
③ 艶がないのは正常。判定基準を教育する
前述の通り、SAC305のフィレットは艶消しです。検査基準書に「光沢の有無で判定しない」と明記し、目視検査員への教育を必ず行うこと。これを怠ると、良品を不良として流出させる「虚報」が増えます。
④ ペーストの保管管理が品質を左右する
SAC305のソルダペーストも、他の鉛フリー品と同様に冷蔵保管と常温戻しが必須です。冷えたまま開封すると結露が混入し、はんだボールやぬれ不良の原因になります。

⑤ 銀の価格変動を調達計画に織り込む
SAC305は銀を3%含むため、銀相場が材料費に直結します。年度予算を組む立場なら、価格変動リスクを見込んでおくべきです。

補足:高密度基板では「反り」がもう一つの敵になる
SAC305の高い融点は、基板の反りという形でも影響します。特に多層・高密度基板では、冷却時の収縮が反りを生み、BGAのオープン不良につながります。原因は3つが複合します。
- CTE(熱膨張係数)の差:基板材料と部品パッケージで収縮量が違う。層ごとに銅密度が偏っていると、応力の偏りが反り・ねじれを増幅する
- 冷却時の温度勾配:表裏や中央と端で冷却速度に差が出ると、局所的な収縮差が反りを生む。ΔT 10℃以内を守るべき理由がここにある
- 吸湿:湿気を含んだ基板をリフローすると水蒸気が内部圧力となり、層間剥離や変形を招く
設計側で打てる手もあります。ダミー銅パターンで銅密度を均一化する、高Tg材(150℃以上)や低吸湿材を選ぶ、基板厚を1.2→1.6mmにして剛性を上げる——いずれも冷却時の不均一な応力を抑える方向に働きます。
意外な盲点|炉のメンテナンス状態が冷却速度を狂わせる

プロファイルを正しく設計しても、炉そのものが劣化していれば設定通りには冷えません。管理職として見落としがちなのが、この「設備コンディションと品質の因果」です。
冷却ゾーンの性能は、ファン・フィルター・熱交換器・窒素シールといった地味な部位に支えられています。ここが汚れると、冷却速度は静かにズレていきます。
冷却速度がばらつく4つの経路
- ファン・送風系の汚れ:フラックス残渣や塵が堆積すると風量が落ち、冷却が遅くなる(結晶粒の粗大化リスク)。逆に一部のファンが偏って回ると局所的な急冷が起き、基板内ΔTが広がって反りやクラックを招く
- 熱交換器の目詰まり:熱交換効率が落ち、設定通りの冷却勾配が出なくなる。圧力損失や温度低下が設計値から10%以上ずれたら清掃・交換のサイン
- 窒素シールの劣化(N₂炉):外気が侵入すると、酸素濃度の上昇と冷却効率の低下が同時に起きる。実務では1000〜2000ppm程度で運用する現場が多い(これ以上下げてもぬれ性への効果は頭打ちで、窒素コストだけが膨らむ)
- ガイドレール・チェーンの摩耗:搬送姿勢が不安定になると、基板ごとに風の当たり方が変わり、ロット間で冷却速度がばらつく
管理基準に組み込むべき項目
| 管理項目 | 推奨基準 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 炉内清掃 | 稼働500時間ごと | ガイドレール・ノズル・熱風循環系を重点的に |
| ファン風量 | 設計値±5%以内 | 回転数・電流値・振動のモニタリング |
| 熱交換器 | 設計値からの逸脱10%超で清掃 | 圧力損失・温度低下の定期測定 |
| 酸素濃度(N₂炉) | 1000〜2000 ppm | 酸素濃度ログの常時監視 |
| ガイドレール | 月1回点検 | 摩耗・平坦性の確認と調整 |
メンテ後は必ずプロファイルを再測定する
これが最も重要な運用ルールです。炉をメンテした後は、必ず熱電対で実測し直してください。「掃除したから大丈夫」ではなく「掃除したから条件が変わった」と考えるのが正解です。
再測定すべきタイミングは次の通りです。
- 炉のメンテナンス実施後
- ファン・フィルターの交換後
- 新しい基板の立ち上げ時
- ペースト銘柄を変更したとき
よくある質問

Q. SAC305とSn-Ag-Cuは同じものですか?
Sn-Ag-Cuは「スズ・銀・銅系」という合金系の総称で、SAC305はその中の具体的な組成の一つです。SAC0307やSAC405も同じSn-Ag-Cu系に含まれます。
Q. 有鉛はんだと混ぜて使えますか?
避けるべきです。混ざると意図しない低融点の相ができ、接合の信頼性が落ちます。こて先・はんだ槽・治具まで含めて、有鉛と鉛フリーのラインは分離するのが原則です。
Q. SAC305のはんだ付け温度(こて先)は?
手はんだの場合、こて先温度は350〜370℃程度が一般的です。有鉛より高めですが、上げすぎると部品やランドを傷めます。こて先の熱容量とチップ形状の選定のほうが、温度を上げるより効果的なケースが多いです。
まとめ

- SAC305=Sn96.5%・Ag3.0%・Cu0.5%。名前がそのまま組成を表している
- 融点は固相線217℃・液相線220℃。3℃の固液共存領域がある
- 有鉛からの置き換えで、ピーク温度は約20℃上昇。艶消し外観が正常
- コスト重視なら低銀・無銀品もあるが、必ず信頼性評価とセットで
- プロファイルはTAL 60〜90秒・ピーク235〜250℃・冷却2〜4℃/秒・ΔT10℃以内の4点セットで管理する
- 2工程リフローでは1回目の再溶融に注意。融点差のある合金を使い分ける
- 炉のメンテ状態が冷却速度を左右する。清掃・点検とメンテ後のプロファイル再測定を管理基準に組み込む
SAC305は、もはや特別な材料ではなく現場の前提です。だからこそ、特性を正しく理解しているかどうかが、不良率の差になって表れます。この記事が、材料選定や現場教育の土台になれば幸いです。

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