「管理職になりたくない」。そう思って検索された方に、まず知っておいてほしいことがあります。
あなたが断っている間にも、推薦は進んでいます。
私は製造業で35年働いてきて、いまは現場の課長をしています。管理職になりたくないと言っている部下を、それでも推薦しました。そして推薦するときに知ったのですが、その人は私が推薦する前から、別の人にもすでに推薦されていました。
本人はまだ、そのことを知りません。
この記事では、推薦する側と、実際になった側の両方から見えていることを書きます。世間でよく言われる「責任が重い」「残業が増える」とは違う話になると思います。
「なりたくない」と言っても、推薦は止まりません
意外に思われるかもしれませんが、推薦する側は「本人がやりたいかどうか」をあまり見ていません。
見ているのは「任せられるかどうか」です。そして任せられる人というのは、たいていいま自分の仕事をきちんとやっている人です。「管理職になりたくない」と言う人ほど、目の前の仕事に集中しているので、その条件を満たしてしまいます。
だから、断っているつもりでいても、名前は挙がり続けます。
しかも、推薦は一人からとは限りません
私が推薦した部下は、私が推薦する前からすでに推薦されていました。つまり複数の人が、別々に同じ人を見ていたということです。
これは推薦する側になって初めて分かったことでした。自分が「この人だな」と思って名前を出すと、上の人が「その話はもう出ている」と言う。そういうことが起きます。
本人からすれば、ある日いきなり打診が来たように見えます。でも実際には、見えないところで何回も名前が挙がったあとの、最後の一手です。
打診が来たときには、もう決まっています
私のときは、上司から「来年、管理職になってほしい」と言われました。
そのとき、所属する部署まで一緒に伝えられました。
これがどういうことか、あとから分かりました。私が知らないところで話は固まっていて、どこに配属するかまで決まっていたということです。
ただし、押しつけられたわけではありません。そのとき「どうするのか決めて、返事がほしい」とも言われました。
つまり、決まっていたのは推薦と配属先までで、受けるかどうかは私に委ねられていたということです。ここは分けて考えたほうがいいと思います。
話が進んでいるのは事実です。でも、決めるのは本人です。
「来年」と言われたので、考える時間はありました。それでも、決まっていたという事実は変わりません。
引き受けると答えても、そこで終わりではありません
もうひとつ、意外に知られていないことがあります。
引き受けると返事をしても、そのまま管理職になるわけではありません。面接試験に合格する必要があります。
つまり打診は、決定ではなく入口です。推薦されて、打診されて、返事をして、そこからやっと試験があります。
このことは、「なりたくない」と思っている人にとって、たぶん2つの意味があります。
ひとつは、断る余地は最後まで残っているということ。もうひとつは、受けると答えても自動的になるわけではないということです。
その試験で何を見られているのかは、別の記事に書いています。落ちた側ではなく、推薦する側から見えていたことをまとめました。
推薦されてから打診が来るまでには、時間があります
私が推薦したその部下には、まだ正式な打診は来ていません。
推薦のほうは済んでいるのに、本人には何も伝わっていない。そういう期間が、いまも続いています。
私自身のときも、打診の言葉は「来年」でした。すぐに交代するわけではありません。
整理すると、流れはこうなっています。
- 複数の人が、別々に名前を挙げる。本人は知らない
- しばらく、何も起きない期間が続く。本人には何も見えない
- 正式な打診が来る。そのときには配属先まで決まっている
いま「管理職になりたくない」と検索されているなら、1の段階にいる可能性があります。そして1の段階では、本人には本当に何も見えません。私が推薦した部下も、いまその状態です。
だから「断り続ければ済む」とは限らない
一度断っても、翌年また来ることがあります。断ったこと自体は記録に残っても、「この人は任せられる」という評価のほうは消えないからです。
私自身も、引き受けるまでにすごく悩みました。すぐには決められませんでした。
世間で言われている「なりたくない理由」は、少しずれています
「管理職 なりたくない」で検索すると、だいたい同じ理由が並びます。
- 責任が重い
- 残業が増える
- 給料が割に合わない
- 部下の面倒を見るのが面倒
- プライベートとの両立が難しい
どれも間違いではありません。でも、実際になってみてきつかったのは、ここに挙がっているものではありませんでした。
責任も残業も、覚悟していれば耐えられます。覚悟していなかったもののほうが、効きます。
本当にきついのは、プレッシャーと孤独と「見られている感じ」です
私が実際にきついと感じたのは、この3つでした。
1. プレッシャー
数字が出なかったとき、原因が自分にないときでも、説明するのは自分です。現場で何かが起きれば、まず自分のところに来ます。
作業者だったころは「自分の担当分をきちんとやる」で終わりでした。いまは終わりの線が引けません。どこまでやっても、まだ何かある感じがずっと続きます。
2. 孤独
部下には言えないことが増えます。上にも、そのまま全部は言えません。
相談したいと思っても、自分の評価に直接関わる相手ばかりになります。同じ立場の人は、たいてい同じくらい忙しくて、余裕がありません。
この孤独については、別の記事で詳しく書いています。

3. 見られている、監視されている感じ
これが、私がいちばん想像していなかったものです。
部下は、こちらが思っている以上に上司を見ています。表情、言葉の選び方、誰と話しているか、機嫌がいいか悪いか。全部見られています。
上からも見られています。数字だけでなく、職場の雰囲気や、離職が出ていないかまで見られます。
つまりどちらを向いても見られている状態が、毎日続きます。悪いことをしているわけではないのに、監視されているような感覚になります。
世間の記事に「見られている感じ」と書いてあるのを、私は読んだことがありません。でも実際になった人に聞くと、たいてい分かってもらえます。
いちばん変わるのは、仕事の中身です
もうひとつ、なる前と後でまったく違ったことがあります。
技術的なことより、人のトラブルや不足の対応ばかりになります。
一日の時間の使い方が、こう変わりました。
- なる前:自分の技術を使って、目の前の課題を解決する
- なった後:人が足りない、人が休んだ、人ともめた、人が辞めたいと言っている。その対応に一日が消える
技術者が管理職を嫌がる本当の理由は、責任でも給料でもなく、ここだと思います。
自分が時間をかけて身につけた技術を、使わせてもらえなくなる。得意なことから遠ざかって、いちばん苦手かもしれない「人の問題」に一日中向き合うことになる。
これは「責任が重い」という言葉では説明しきれません。仕事そのものが別の職業に変わるというほうが近いと思います。
それでも、私が引き受けた理由
ここまで書いておいて何ですが、私は引き受けました。
理由は、給料でも役職でもありません。この先も会社に貢献したいと思ったからです。そして、次の世代につなぎたいと思ったからです。
35年やってくると、自分が教わってきたものが積み上がっています。現場のやり方も、失敗の避け方も、ほとんどは誰かに教わったものです。それを自分のところで止めてしまうのは、もったいないと感じました。
ただ、これは私の理由であって、あなたの理由にはなりません。同じ動機を持てと言うつもりはまったくありません。
断ってもいいと思います
私は、管理職になりたくないと言う部下に、説得はしていません。
言っているのは、こういうことです。
いまは、それでいいと思う。時が来れば、自分から引き受けようと思うはずだから。
無理に引き受けても、たぶんうまくいきません。納得していない状態で人の問題に向き合うのは、いちばんきついやり方だからです。
やらされていると思いながらやると、部下にもそれが伝わります。見られていますから。
だから、いまはまだと思うなら、それでいいと思います。
断った人は、そのあとどうなったか
実際に断った人を知っています。
その人はいま、管理職の手前の役職のまま、同じ仕事を続けています。
降格もしていませんし、干されてもいません。何も起きていません。
「断ったら終わりだ」と思って引き受ける人がいます。でも少なくとも私の周りでは、そうはなっていません。
ただし前に書いたとおり、推薦されたという評価のほうは消えません。だから、また来ることはあります。
ただし、断り方には差が出ます
推薦する側から見ていて、正直に言うと、断り方で印象は変わります。
印象が悪くなるのは、こういう断り方です。
- 「責任を取りたくない」だけを理由にする
- 「自分には無理です」で終わらせて、それ以上何も言わない
- 打診されたこと自体に不機嫌になる
これらは、断る理由としては正直なのですが、聞いた側には「この人は今の仕事にも同じ姿勢なのかもしれない」と映ってしまいます。それは本意ではないと思います。
逆に、印象が変わらない、あるいは良くなる断り方もあります。
- いま自分がやっている仕事で、まだやり切っていないことを具体的に伝える
- 「今は」と時期の話にする。永久に無理という言い方をしない
- 声をかけてもらったこと自体には、きちんと礼を言う
これは処世術の話ではありません。推薦する側は「この人は自分の仕事をどう考えているか」を見ているので、そこが伝わる断り方かどうか、という話です。
昇格の場面で推薦する側が何を見ているかは、別の記事にまとめています。

まとめ
- 「なりたくない」と言っていても、推薦は止まりません。推薦する側は、やりたいかどうかではなく、任せられるかどうかを見ています
- 推薦は一人からとは限りません。知らないところで、複数の人が同じ名前を挙げていることがあります
- 世間で言われる「責任が重い」「残業が増える」は、覚悟していれば耐えられます
- 実際にきついのは、プレッシャーと孤独と「見られている感じ」です
- いちばん変わるのは仕事の中身です。技術より、人のトラブルと不足の対応ばかりになります
- 断ってもいいと思います。納得していない状態で引き受けるのが、いちばんきついやり方です
- ただし断り方には差が出ます。「今は」と時期の話にして、いまの仕事への考えが伝わる形にしてください
- 打診が来たときには、推薦も配属先も決まっています。ただし受けるかどうかは本人に委ねられます。私も「決めて返事がほしい」と言われました
- 断っても、何も起きていません。私の周りで断った人は、いまも同じ仕事を続けています
- 受けると答えても、面接試験に合格する必要があります。打診は決定ではなく入口です
管理職になりたくないと思うのは、おかしなことではありません。私も、すごく悩みました。
ただ、悩んでいる時点で、あなたはもう見られています。断るにしても、それを知ったうえで断るほうが、たぶん後悔が少ないと思います。

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