「管理職、辞めたい」——そう検索してこのページにたどり着いたのだと思います。
先に、私自身のことを書きます。私は今も現役の課長ですが、辞めたいと常に思っています。「これで良いのか」と葛藤しながら、それでも続けています。
管理職は、外からは「何もしていない」ように見えます。実際は裏で動き続けていて、しかもその内容は言えないものばかりです。誰にも説明できないまま抱えるあの感じを、同じ立場の人になら分かってもらえると思います。
転職サイトの記事は「辞めたいなら動きましょう」と背中を押してきます。でも実際は、辞めたい気持ちを抱えたまま続けている管理職のほうが、はるかに多いはずです。この記事は、その立場から書きます。
✅ 「辞めたい」と思い続けたまま続けていい、という選択肢
✅ 管理職が「向いてない」と感じる典型的な4つの場面
✅ 能力不足だと感じるのは、実は能力の問題ではないこと
✅ 「現場に戻りたい」と思うのは逃げではない、という話
✅ プレーヤーとして強い人ほどハマる、部下との関わりの罠
✅ 私が辞めずに続けている、2つの現実的な理由
なお、この記事はすでに管理職になった人に向けて書いています。まだなっていなくて「そもそもなりたくない」と思っている段階なら、別の記事のほうが近いと思います。推薦は本人の知らないところで進んでいる、という話です。

結論:辞めたいと思ったまま続けても構わない
いきなり結論を書きます。「辞めたい」と思うこと自体は、辞めるべきサインではありません。
多くの記事は「辞めたい=限界」「辞めたい=転職の合図」と書きます。しかし私の実感は違います。管理職をやっていれば、辞めたいと思うのが普通です。思わない人のほうが少ないのではないでしょうか。
私は製造業で35年働いてきて、25年ぶりに現場へ戻って課長になりました。それから今まで、ずっと「これで良いのか」と思い続けています。迷いが消えたことは一度もありません。
「向いてない」と感じる4つの場面
管理職が「自分は向いていない」と感じるのは、だいたい次の4つの場面です。どれも能力の問題ではなく、役割の構造上、避けられないものです。
| 場面 | なぜそう感じるのか |
|---|---|
| 板挟みになったとき | 上からは数字、下からは不満。どちらの側にも立てないのが管理職の立ち位置 |
| 部下が動いてくれないとき | 自分でやれば5分で終わる。でもそれをやると育たない。その葛藤が延々と続く |
| 成果が自分のものにならないとき | プレイヤー時代は成果が見えた。管理職はうまくいって当たり前、失敗すると自分の責任 |
| 相談相手がいないとき | 部下には弱音を吐けない。上司には評価される。本音を話す相手が社内にいない |
「何もしていない」と思われる——これが一番こたえる
4つの場面のどれよりも、じわじわ効いてくるのがこれです。
管理職は「何もしていない」と思われがちです。現場から見れば、机に向かっているか、会議に出ているか、どこかに行っているか。手を動かしていないので、そう見えます。
でも実際は、裏で常に動いています。そして厄介なことに、その内容は言えないものばかりです。
- 人の処遇や評価に関わる話
- まだ確定していない、組織や体制の変更
- 顧客や取引先とのやり取りで、途中経過を出せないもの
- 誰かをかばうために、黙って引き受けたこと
言えば楽になるのに、言えない。「あの人は何をやっているんだ」と思われながら、説明しないまま動き続ける——これが管理職の日常です。
4つ目が、いわゆる管理職の孤独です。これは性格の問題ではなく、役職がそういう位置にあるというだけの話です。
「能力不足」だと感じるのは、能力の問題ではない
「管理職 能力不足」で検索する人が一定数います。私も同じことを考えたことがあります。ただ、周りを見ていて思うのは、能力が足りなくて詰んでいる管理職は、実はほとんどいないということです。
本当に起きているのは、たいてい次のどれかです。
- 誰も教えてくれなかった——管理職の仕事を体系的に習う機会が、日本の製造業にはほぼありません
- 比較対象が前任者しかいない——タイプの違う人と比べて落ち込んでいるだけのことが多い
- 評価されるまでの時間が長い——現場改善の成果が出るには年単位かかります。その間は手応えがない
つまり能力ではなく、教わっていないことと、時間軸の問題です。ここを分けて考えるだけで、少し楽になります。
ちなみに私は、この「教わっていない」を埋めるためにQC検定3級を受けました。40代で、しかも一度落ちています。資格そのものより「データで語れるようになったこと」のほうが、現場で効きました。
▶ QC検定3級の裏ワザは「捨てる」|一度落ちて受かった現場課長の勉強法
正直に言うと、現場に戻りたいと思うこともある
もうひとつ、本音を書きます。作業員に戻れるなら戻りたい——そう思うことが、今でもあります。
現場にいた頃は、やることがはっきりしていました。手を動かせば形になるし、良いものを作れば「良い」と分かる。終業時に「今日はこれをやった」と言える。
管理職になると、それがなくなります。1日中動き回っても、手元には何も残らない日がある。「今日は何をしたんだろう」と思いながら帰る日が、正直あります。
| 現場作業 | 管理職 | |
|---|---|---|
| 成果 | その日のうちに形になる | 年単位で、しかも見えにくい |
| 評価 | 作ったものが評価 | うまくいって当たり前 |
| 気持ちの区切り | 終業でつく | 持ち帰ってしまう |
それに、プレーヤーとしてなら負けないという自負があります。30年やってきた技術と勘は、そう簡単に誰かに追い抜かれるものではありません。
ここが管理職のややこしいところで、自分が一番できる領域から、わざわざ離れさせられているわけです。得意なことをやれば結果が出ると分かっているのに、それをやってはいけない立場にいる。「向いてない」と感じる正体の半分は、これだと思います。
だから「戻りたい」と思うのは、逃げでも甘えでもありません。手応えのある仕事が恋しいというだけの話です。管理職を経験した人なら、たいてい一度は思うはずです。
プレーヤーとして強い人ほど、部下の話を聞けなくなる
ここが、自分でも一番気をつけているところです。
自分ができてしまうと、「なぜこれができないんだ」と思ってしまいます。悪気なく、本当に不思議に思ってしまう。プレーヤーとして結果を出してきた人ほど、この罠にはまります。
でも現場に立ってみると、部下は本当にさまざまです。
| タイプ | 関わり方 |
|---|---|
| できるプレーヤー | 任せる。細かく口を出すと、かえって伸びが止まる |
| 私の感覚が分かるプレーヤー | 一番ありがたい存在。ただし頼りすぎないよう意識する |
| 仕事ができないプレーヤー | ここが管理職の本当の仕事。同じやり方は通用しない |
自分の基準で測ってしまうと、ほとんどの部下が「できない」に見えます。それをやると、現場は一気に萎縮します。私が経験してきた「できない」は、私の物差しでの話でしかありません。
だから私は、部下の話を聞くことを一番重要視しています。
できていない人には、必ず理由があります。手順が分かっていないのか、道具が合っていないのか、そもそも何を求められているか伝わっていないのか。聞かないと、そこが分かりません。「なぜできない」と責めても、原因は出てきません。
具体的な関わり方は、別記事にも書いています。
▶ 部下の提案を否定しない!信頼を築く受け止め方のコツ
▶ 仕事ができない部下への対応|見切る前に確認すべき3タイプ
▶ 新人教育がしんどい・丸投げされたときの考え方
管理職の孤独は、一人でいることではありません
「管理職は孤独だ」とよく言われます。ただ、その中身は、たいてい誤解されています。
昼休みに部下たちが連れ立って出ていく。飲み会に呼ばれなくなる。そういう寂しさの話ではありません。
本当の孤独は、みんなと違う判断をしなければならないときに来ます。
現場は「やりたくない」と言う。その気持ちも分かります。私も現場にいたので、なぜ嫌なのかは手に取るように分かる。それでも、やらなければならないと分かっている。
その差を、一人で引き受けることになります。これが孤独です。
なぜ、違う判断になるのか。理由ははっきりしています。
多数決が正しいとは限らないからです。
いま全員が納得する判断と、3年後に正しかった判断は、違うことがあります。変えなければならないとき、最初は必ず少数派になります。誰も賛成しない中で決めるので、当然、孤立します。
ただし、ここからが大事です。
「周りが分かっていないだけだ」と思った瞬間に、ただの独りよがりになります。
本当に自分のほうが間違っていることも、あります。そして厄介なことに、「先を見ている」と「思い込んでいる」は、自分では区別がつきません。
だから、話せる相手が要るんです。
相談相手は、下ではなく上に見つける
この手の記事を読むと、たいてい「部下と1on1をしましょう」「メンバーと話す時間を作りましょう」と書いてあります。私の実感では、逆でした。
部下には相談できません。判断の重さを、背負わせることになるからです。「課長も迷っているのか」と思わせた時点で、現場が不安になります。
では誰に話すのか。直属の上司も、実は言いにくいです。さっき書いたとおり、自分を評価する相手だからです。
私が話していたのは、もっと上の——自分の評価に直接関わらない立場の人でした。評価されない相手だからこそ、本音が言えます。
そして、これが実際に効いたやり方です。
正式に「相談があります」とは言いませんでした。雑談の中で話しました。
場を作ると、重くなります。「お時間いただけますか」と切り出した時点で、相手も構えるし、自分も言いにくくなる。流れの中でこぼすほうが、話せます。
そして相手も、構えていないぶん本音で返してくれます。
それでも理解されないときは
「わかっていない」と言われたこともあります。
その場で反論しても伝わらないので、黙って引き受けました。言い返して勝っても、何も進まないからです。
ただし、これは「耐えろ」という話ではありません。
耐えるべき場面と、耐えなくていい場面があります。理解されないまま続けることと、心と体が壊れるまで続けることは、まったく別の話です。その線引きについては、このあとに書きます。
それでも私が辞めない、2つの理由
綺麗事を書くつもりはないので、正直に2つ挙げます。
① 生活のため
まずこれです。自分の生活があります。ここを飛ばして志だけを語る記事は信用しないでください。管理職を降りれば収入は下がりますし、転職すれば環境が変わります。それを引き受けられるかどうかは、生活の話です。
② この会社を次の世代に引き渡したい
もうひとつは、こちらです。35年勤めていると、会社に愛着が湧くんですよね。
自分が入った頃の先輩たちが作ってきたものを、次の世代に渡したい。そう思うから、辞めたいと思いながらも続けています。これは損得ではありません。
それでも本当に限界なら、動いていい
ここまで「辞めたいと思ったまま続けてもいい」と書いてきましたが、例外があります。
- 眠れない、食べられないなど体に出ている
- 家族に影響が出ている
- 会社の側に構造的な問題がある(人員が明らかに足りない、パワハラが放置されている等)
これらに当てはまるなら、話は別です。我慢は美徳ではありません。まず産業医や社内の相談窓口を使ってください。それでも変わらないなら、外を見るのは正当な判断です。
製造業の求人を見ておくだけでも、「いざとなれば動ける」と分かって気持ちが軽くなることがあります。実際に動くかどうかは、後で決めれば構いません。
採用する側から見た「受かる人・落ちる人」の違いは、こちらにまとめました。
▶ 製造業の転職ガイド|採用する側の課長が本音で解説
交代勤務を組む側の事情と、続けるための考え方はこちらに書きました。
▶ 交代勤務はなぜきついのか|シフトを組む側の管理職が正直に書く
なお、辞めたいと思うかどうかとは別に、役職定年という形で立場が変わる日も来ます。取引先でそれを迎えた方に会って考えたことを、役職定年はつらいのかにまとめました。
それから、辞めたあとに「戻りたい」と思う人もいます。実際に戻ってきた方も見ています。辞め方によって、その道が残るかどうかが変わります。受け入れる側から見た話は出戻り転職はできる。ただし同じ椅子とは限らないに書きました。
いま管理職を辞めたいと感じている方とは逆に、これから上がろうとして通らなかった方もいます。推薦する側から見た「落ちる理由」は、こちらに書きました。

葛藤したままでいい
最後に、もう一度書きます。
私は今も「辞めたい」と思っていますし、「これで良いのか」と葛藤しています。それでも明日も現場に行きます。迷いが消えるのを待つ必要はありません。迷ったまま続けることは、負けではありません。
同じことを考えている管理職は、あなたの職場にもきっといます。ただ、みんな言わないだけです。
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