この記事では、仕事を出してくれる発注元のお客さんを「メーカー」と呼びます。
「商社を通すのと、メーカーと直接取引するのと、どちらがいいのか」。そう考えて調べている方に向けた記事です。
この話題は、買う側(調達)や商社の側から書かれた記事がたくさんあります。この記事は立場が違います。メーカーから仕事を受けて作る工場の立場で書きます。
私は製造業で35年働いてきました。生産技術を20年、法人営業を5年経験し、今は実装(SMT)の現場で課長をしています(くわしくはプロフィール)。商社経由の案件には、生産技術・営業・現場の課長と立場を変えて、どの立場でも関わってきました。
この記事の要点
- 作る側から見ると、商社経由は情報の食い違いや条件の違いで手間がかかる
- 私の経験では、メーカーと直接・続けての取引がいちばんスムーズ
- 商社と組むなら、最初の相手はISOの仕組みがある商社に
先にお断りしておきます。商社にも役割があります。この記事は「商社をやめて直接取引にしよう」という話ではありません。取引の形をどう選び、どう付き合うかの話です。
商社経由と直接取引の違い|まず形を整理する
この記事では、作る側(私たち)を「工場」、商社・代理店をまとめて「商社」と書きます。
取引の形は、大きく2つです。
- 商社経由:メーカー → 商社 → 工場
- 直接取引:メーカー → 工場
作る側から見た違いを、私の経験から表にまとめました。どの取引にも当てはまるわけではありませんが、目安にしてください。
| 比べるところ | 商社経由 | 直接取引(続けての取引) |
|---|---|---|
| 情報の伝わり方 | 商社を通って届くため、ずれたり止まったりすることがある | メーカーと直接話せる |
| 仕様・品質条件 | いろいろなメーカーの案件が入り、案件ごとに条件が違う | 続けるうちに、メーカーの考え方が分かってくる |
| 価格 | 値下げの相談や、安売り競争に巻き込まれやすい | 品質で選んでもらえることがある |
| トラブルのとき | 工場側の問題のように扱われがち | 続けて取引していれば、相手の考え方が分かっている |
| 手間 | 手間がかかる | 考え方が分かってくるので、進めやすい |
作る側から見た、商社経由のデメリット(私の体験)
ここからは、作る側として私が感じてきたことを短くまとめます。品質条件のすり合わせ方や、変更の受け方などのくわしい話は、こちらに書いています。
関連記事:新規顧客との品質基準の擦り合わせ方|検査・4M変更・商流の注意点
情報が食い違う・途中で止まる
商社経由の案件では、私の経験上、次のことがよく起きました。
- 伝わる途中で、内容がずれて届く
- 届くはずの情報が、どこかで止まる
- 打合せで、お互いの話がすれ違う
メーカーと話せばすぐ済むことでも、1社はさむだけでぐったりします。
案件ごとに、メーカーの考え方・仕様・品質条件が違う
商社からは、いろいろなメーカーの仕事が回ってきます。考え方も、仕様も、品質条件も、メーカーが変わればそのたびに違います。
工数とエネルギーは、私の感覚で3倍以上
こうしたことが重なり、私の感覚では、ふつうの案件の3倍以上の工数とエネルギーを使います。測った数字ではなく、実感です。
コストダウンの要請と、安売り競争
商社には、自社の利益を守る立場があります。その立場から、工場に値下げの相談が来ることがあります。
私の経験では、工場が値を下げても商社の取り分が減らない形が多く、増えていることもよくありました。値下げの負担は、作る側に残ります。安売り競争に巻き込まれやすいのは、このためです。
お客さんと現場の間に立つ苦しさは、課長としての立場から別の記事にも書きました。
関連記事:生産管理はきつい?辞めたい人へ|顧客と現場の間に立った課長の本音
トラブルのとき「伝えています」になりやすい
メーカーの書類の様式(決まった書式)は整っていても、商社を通すと、渡され方がそろわないことがあります。そのうえでトラブルが起きると、商社によっては「伝えています」となり、工場側に問題があるかのように扱われがちです。
直接・継続の取引が、作る側にとってスムーズな理由
同じメーカーと続けて取引していると、そのメーカーの考え方・仕様・品質条件が分かってきます。私の経験では、直接・継続の取引がいちばん話が早く進みました。
もう1つは、価格だけで比べられにくいことです。営業をしていた頃、お客さんと接していて感じたのは、少し安い工場より、品質が安定している工場に仕事を出したいという気持ちでした。
実際に、こちらの見積もりが高くても受注できたことがあります。そのお客さんは、直接取引のお客さんでした。
営業の頃、見積もりが高くても受注できた話は、QC検定の記事にも書きました。
関連記事:QC検定は意味ない?
法人営業の5年間で感じたことは、技術営業の記事にまとめています。
関連記事:技術営業はやめとけ?
直接取引で、作る側として大変だったことは、私の場合は特にありませんでした。ただ、これは相手や会社によって違うと思います。
それでも商社を通す理由|商社にも役割がある
「商社はなぜ間に入るのか」「商社を通すメリットは何か」。この疑問にも答えておきます。
一般に言われる、商社を通すメリット
一般には、次のような面があると言われます。
- たくさんの取引先との窓口をまとめてくれる
- 代金の支払いや受け取りの間に入ってくれる
- 部品や材料の手配で動いてくれる
- 作れる工場と、作ってほしい会社をつないでくれる
私が「助かった」と感じた商社の関わり方
私が経験した中で、助かった形があります。
商社がお客さんを紹介してくれて、「取引は直接やってください。商社は部品の受注だけでよいです」と言ってくれた形です。工場はメーカーと直接話ができ、商社は部品の受注を受け持つ。助かった形でした。
商社との付き合い方は、「通すか、通さないか」の2つだけではありません。
ISOの仕組みがある商社と組むと、トラブルが少なくなることもある
相手の商社に、ISO(品質マネジメントの国際規格)の仕組みがあるかどうかでも、やりやすさが変わります。
| 相手 | 変更や要望の届き方 | 起きやすいこと |
|---|---|---|
| 変更管理の仕組みがまだ整っていない会社 | メール1本が、そのまま正式な依頼になる | トラブルになりやすい |
| ISOの仕組みがある商社 | 決まった様式(帳票)で届く | トラブルが減ることもある |
同じ「商社」でも、中身はさまざまです。そのため私は、商社と組むなら、最初の相手はISOの仕組みがある商社にするのが大事だと考えています。
商社経由の案件を受けるとき、作る側が最初に確かめること
ここでは、取引を始めるときに確かめることに絞ります。
- 相手の商社に、ISOの仕組みがあるか
私は、相手の商社のホームページで、ISO認証を持っているか、品質方針のページがあるか、会社の規模はどれくらいかを確かめていました。 - 連絡の窓口と、メーカーと直接話せる場があるか
最初の打合せで決めておくと安心です。 - 変更をメールだけで受けない
決まった様式で受け取り、受け取った日と中身を残しておきます(はじめに紹介した品質基準の記事にくわしく書いています)。
私がとってきた方針:受ける案件を選ぶ
商社経由の案件について、私がとってきた方針は次の3つです。
- 見積もりを、通常より高めに出す(安売りしない)
- 失注してもよい、と考える
- 最初から辞退する
その結果、商社経由の話は少しずつ来なくなりました。
理由はシンプルです。商社経由の案件は、私の感覚で3倍以上の手間がかかり、割に合わないからです。この方針は、当時の上司と相談して決めていました。
ここで書くのは、案件を受けるときの自社の方針の話です。
メーカーと直接取引するには(作る側から)
ここで書くのは、新しくお客さんと取引を始めるときの話です。
新しいお客さんと直接取引を始めるときに相手から見られるのは、たとえば次のようなことです。営業をしていた頃も、今もそうです。
- 工場見学
- 試作
- 工場監査(ISOの監査に近いもの)
この工場に任せて大丈夫か、を見られていたと私は受け止めています。
前の章で書いたとおり、お客さんは品質が安定している工場に仕事を出したいと考えます。私は、ISOのルールが現場にしっかり定着していることも、お客さんにとって大事だと考えています。直接取引を選んでもらう土台は、品質と仕組みだと思います。
また、商社がお客さんを紹介してくれて、取引は直接、という形もあります。良い商社との関わりが、直接取引の入り口になることもあります。
まとめ
- 作る側から見ると、商社経由は情報のずれ・止まる・条件の違いで手間がかかる(私の感覚では3倍以上)
- 値下げの相談や、安売り競争に巻き込まれやすい
- 商社にも役割がある。お客さんを紹介して、取引は直接という形に助けられたこともある
- 商社と組むなら、最初の相手はISOの仕組みがある商社に。私はホームページ(ISO認証・品質方針・会社の規模)で確かめていた
- 私の経験では、メーカーと直接・続けて取引する形がいちばんスムーズ
- 直接取引を始めるときは、工場見学・試作・工場監査などで「任せて大丈夫か」を見られる
取引の形が決まったら、次は品質基準のすり合わせです。こちらの記事も読んでみてください。

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